親の高齢化で自宅でのケア継続が難しくなったら?障害のある成人した子のための選択肢と準備
はじめに
ご家族の中に障害のある成人した方がいらっしゃる場合、親御さんが高齢になるにつれて、「この先のケアはどうなるのだろうか」「自分たちが元気でなくなったら、この子はどこで、どのように暮らすのだろうか」といった不安を感じられることがあるかもしれません。特に、長年ご自宅でケアをされてきた方にとって、親自身の体力の低下や健康状態の変化は、避けては通れない課題です。
この記事では、親御さんの高齢化により自宅でのケア継続が難しくなった場合に考えられる、障害のある成人した方のための様々な選択肢と、将来に向けて事前に知っておくべきこと、準備しておくべきことについて解説します。不安を抱えている方が、少しでも安心して将来への一歩を踏み出すための情報としてお役立ていただければ幸いです。
自宅でのケア継続が難しくなる背景
親御さんの高齢化に伴い、自宅でのケアが難しくなる背景には、様々な要因が考えられます。
- 親御さんの体力や健康状態の変化: 加齢に伴う体力低下、持病の悪化、ケガなどにより、身体的な介助や見守りが困難になることがあります。
- 認知機能の変化: 認知症などにより、判断能力や段取り力が低下し、複雑なケアや緊急時の対応が難しくなる場合があります。
- 障害のある方の状態の変化: 障害のある方自身も加齢に伴い、必要なケアの内容が変わったり、医療的なニーズが増えたりすることがあります。
- 精神的な負担の増大: 長年のケアによる疲労や、将来への不安が積み重なり、精神的に限界を感じることもあります。
- 同居家族の状況変化: きょうだいの独立や結婚、配偶者の逝去などにより、ケアを分担できる人がいなくなることもあります。
このような状況になったときに、「どうしよう」と慌てるのではなく、事前に情報を集め、様々な可能性について検討しておくことが重要です。
自宅でのケア継続が難しくなった場合の選択肢
親御さんの高齢化によって自宅でのケアが難しくなった場合、考えられる主な選択肢はいくつかあります。状況に応じて、これらの選択肢を組み合わせたり、段階的に移行したりすることも可能です。
1. 自宅でのサービスを増強・見直しする
まずは、現在の住み慣れたご自宅での生活を継続するために、利用している障害福祉サービスや医療サービスを見直したり、増やしたりすることを検討します。
- 利用しているサービスの量の増減: 訪問介護や重度訪問介護、日中活動サービス(生活介護、就労継続支援など)の利用時間を増やすことで、親御さんの負担を軽減し、専門的なケアを導入できます。
- 利用するサービスの種類を増やす: 必要に応じて、居宅介護、同行援護、行動援護、自立生活援助など、状況に合わせたサービスを追加利用することを検討します。
- 福祉用具の活用: ベッドや車椅子、入浴補助具などの福祉用具を導入することで、介助の負担を軽減したり、本人の自立を支援したりできます。
- 医療連携の強化: 訪問看護や訪問診療などを利用し、医療的なケアが必要になった場合に対応できる体制を整えます。
これらのサービスを見直す際は、相談支援専門員に相談し、本人の状況や親御さんの負担を詳しく伝え、個別支援計画に反映させてもらうことが非常に重要です。
2. 自宅以外での生活・ケアの場を検討する
自宅でのサービスを増強してもなおケアが困難な場合や、親亡き後を見据えた準備として、自宅以外での生活の場を検討することも重要な選択肢です。
- グループホーム(共同生活援助): 障害のある方が、数人程度の単位で共同生活を営む住居です。世話人や生活支援員から、食事、入浴、排せつなどの日常生活上の援助や相談、その他日常生活上の援助を受けることができます。地域の中で暮らしたいという希望がある場合に適しています。日中は職場や日中活動サービスに通うなど、他のサービスと組み合わせて利用することが一般的です。
- 入所施設(施設入所支援): 障害者支援施設などに入所し、夜間や休日に、食事、入浴、排せつなどの介護の他、生活に関する相談や助言などの支援を受けながら生活する場です。24時間体制でのケアが必要な方や、医療的なケアのニーズが高い方などが利用する場合があります。日中活動サービスや医療サービスなどが施設内で提供されることもあります。
- 短期入所(ショートステイ): 短期間施設などに入所し、入浴や排せつ、食事などの介護や、生活上の支援を受けるサービスです。親御さんの病気や冠婚葬祭、休息(レスパイトケア)などのために利用できます。定期的に利用することで、親御さんの負担を軽減するだけでなく、将来的な施設入所のシミュレーションとして活用することも可能です。
これらの施設は、それぞれの特徴や提供されるサービスが異なります。本人の障害の種類や程度、必要なケア、本人の意向や適性、親御さんの希望などを考慮して検討する必要があります。
各選択肢を検討する上でのポイント
自宅でのサービス増強にせよ、自宅以外の生活の場にせよ、検討する上で共通する重要なポイントがあります。
個別支援計画と相談支援専門員との連携
どのようなサービスを利用するにしても、個別支援計画は非常に重要です。本人の生活に対する意向や能力、家族の状況、必要な支援の内容などが具体的に盛り込まれた計画に基づいてサービスが提供されます。親御さんの高齢化に伴う状況変化をしっかりと相談支援専門員に伝え、実現可能なケア体制について共に検討してもらうことが、今後のサービス利用の鍵となります。
本人の意向の確認と意思決定支援
最も大切なのは、サービスを利用する本人(障害のある方)の意向です。可能な限り、本人がどのように暮らしたいのか、どのような支援を必要としているのかを確認し、その意思を尊重することが求められます。必要に応じて、本人の意思決定を支援するための方法や制度(日常生活自立支援事業など)についても検討を視野に入れる必要があります。成年後見制度を利用している場合や、将来的に成年後見制度の利用を検討している場合は、後見人や候補者とも十分に情報共有し、本人の最善の利益を考慮して判断を進めることになります。
早めの情報収集と相談、見学
自宅でのケアに限界を感じ始めてから慌てて情報収集を始めるのではなく、親御さんがある程度元気なうちから、利用可能なサービスや施設について情報収集を始め、相談機関に早めに相談することが大切です。グループホームや入所施設を検討する場合は、実際に見学に行ったり、可能な場合は体験利用をしたりして、本人の適性や施設の雰囲気、提供されるサービス内容を確認することが非常に有効です。
親亡き後も見据えた総合的な検討
自宅でのケアの限界は、しばしば親亡き後の生活を具体的に考え始めるきっかけとなります。住居やケアだけでなく、財産管理や権利擁護(成年後見制度など)も含めた、障害のある方の人生全体の将来設計として、多角的な視点から検討を進めることが重要です。
どこに相談すれば良いか
親御さんの高齢化に伴う自宅ケアの課題や、将来の住まい・ケアについて相談したい場合、以下のような窓口が考えられます。
- 相談支援事業所: 障害のある方やそのご家族からの相談に応じ、必要な情報提供や助言を行い、サービス等利用計画の作成などを行う専門機関です。障害福祉サービス全般に関する相談が可能です。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: お住まいの市区町村の障害福祉課などが窓口となります。地域で利用できるサービスや制度に関する情報提供、申請手続きの案内などを受けることができます。
- 障害者基幹相談支援センター: 地域の相談支援の中核を担う機関として、より専門的な相談や地域の社会資源に関する情報提供などを行います。
- 地域包括支援センター: 地域の高齢者の暮らしを支える総合相談窓口ですが、高齢の親御さんの介護に関する相談や、障害のある子のケアとの両立に関する相談など、親御さん自身の状況について相談できる場合があります。
これらの相談機関に、現在の状況や抱えている不安、将来の希望などを具体的に伝え、どのような選択肢があるのか、どのような準備を進めれば良いのか、専門的なアドバイスを求めてみましょう。
まとめ
親御さんの高齢化は、障害のある成人した子の自宅でのケア体制を見直す大切な時期です。すぐに答えが見つからなくても、早めに情報収集を始め、相談機関に繋がることが、今後の安心につながります。自宅でのサービス増強、グループホームや入所施設といった自宅以外の生活の場など、様々な選択肢を、本人の意向や必要なケアの内容、ご家族の状況などを総合的に考慮して検討することが重要です。
一人で抱え込まず、信頼できる相談支援専門員や行政の窓口と連携しながら、障害のある方が安心して、その方らしく暮らしていけるような将来設計を、少しずつ具体的に進めていきましょう。