障害のある方の暮らしを支える 日常生活自立支援事業の仕組みと利用手続き
はじめに:将来への不安を軽減するために
障害のある方が、住み慣れた地域で安心して暮らし続けていくためには、様々な支援が必要です。特に、日々の金銭管理や福祉サービスの利用手続きなど、自分一人で行うことが難しい場合に、どのようにサポートを受けられるのか不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
「親亡き後」を見据えた場合、そうした手続きを誰が担うのか、適切な支援が継続されるのかといった点は、ご家族にとって大きな懸念事項となることがあります。
ここでは、判断能力が不十分な方が安心して地域生活を送るための公的な支援制度の一つである「日常生活自立支援事業」について、その仕組みと利用手続きを中心に分かりやすく解説します。
日常生活自立支援事業とは
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などで判断能力が不十分な方が、地域において自立した生活を送れるよう、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理の援助を行う事業です。
この事業は、各都道府県の社会福祉協議会が運営主体となり、市町村社会福祉協議会と連携して実施されています。本人の意思を尊重しながら、契約に基づき具体的な支援が行われるのが特徴です。
どのような支援が受けられるのか
日常生活自立支援事業で提供される支援内容は、大きく分けて二つあります。
1. 福祉サービスの利用援助
これは、ご本人がどのような福祉サービスを利用したいのかを一緒に考え、サービス事業者との契約や手続きをサポートする支援です。例えば、以下のような援助が含まれます。
- どのような福祉サービスがあるのかの情報提供
- サービスを選択するための相談や助言
- サービス事業者との契約、内容変更、解約の手続きの援助
- サービス利用に伴う苦情解決制度に関する情報の提供や手続きの援助
2. 日常的な金銭管理の援助
これは、日常生活を送る上で必要となる様々なお金の出し入れや管理をサポートする支援です。具体的な内容は以下の通りです。
- 年金や手当などの受領に必要な手続きの援助
- 医療費や公共料金、家賃などの支払い手続き
- 預貯金の出し入れ(生活費として通常必要となる範囲)
- 通帳や印鑑、証書などの書類の預かり(希望する場合)
ただし、投機目的の株式や不動産の取引、高額な金銭の管理など、特別な専門知識が必要な財産管理は、この事業の対象外となります。
どのような人が利用できるのか
日常生活自立支援事業の利用対象者は、以下のような方です。
- 認知症高齢者、知的障害者、精神障害者など
- 判断能力が十分ではないが、契約内容について理解できる方
- この事業による支援を自らの意思で利用することを望んでいる方
- 地域で生活している方
病院や施設に入所・入居している方でも、地域生活への移行が近いなど、必要性が認められる場合は利用できることがあります。詳細は、お住まいの地域の社会福祉協議会にご確認ください。
成年後見制度との違い
日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分な方を支援する制度ですが、成年後見制度とは役割や対象が異なります。
| 比較項目 | 日常生活自立支援事業 | 成年後見制度 | | :---------------- | :------------------------------------------- | :--------------------------------------------- | | 根拠法 | 社会福祉法 | 民法、成年後見の事務の円滑化に関する法律 | | 実施主体 | 各都道府県社会福祉協議会 | 家庭裁判所 | | 利用対象者 | 判断能力が不十分だが、契約内容を理解できる方 | 判断能力が十分でない方全般(程度は問わない) | | 利用開始 | 社会福祉協議会との契約に基づく | 家庭裁判所への申立て、審判に基づく | | 支援内容 | 福祉サービス利用援助、日常的金銭管理援助 | 財産管理、身上監護(医療・介護などの契約等) | | 契約締結能力 | 契約内容を理解し、同意できる能力が必要 | 不要 | | 財産管理の範囲 | 日常的な金銭管理(投機など専門的管理は含まない) | 財産全般の管理・処分(不動産売買なども含む) | | 裁判所の関与 | なし(契約に基づく) | あり(選任、監督) |
日常生活自立支援事業は、ご本人が契約内容を理解し同意できる、比較的軽度の判断能力の不十分さがある場合に適しています。一方、成年後見制度は、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」があり、より広範な財産管理や身上監護のサポートが必要な場合に利用されます。どちらの制度が適しているかは、ご本人の状況によって異なりますので、専門機関に相談することが重要です。
利用の申し込み方法・手続きの流れ
日常生活自立支援事業を利用するには、以下のステップで進めるのが一般的です。
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相談・申し込み
- まず、お住まいの市区町村にある社会福祉協議会、または都道府県社会福祉協議会に電話などで相談します。
- 事業の説明を受け、利用を希望することを伝えます。
- ご本人やご家族などからの申し込みが可能です。
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専門員(あんしんサポート専門員)による訪問・支援計画の作成
- 社会福祉協議会の専門員がご本人を訪問し、ご本人の状況や希望、どのような支援が必要かなどを詳しく聞き取ります。
- 聞き取り内容に基づき、ご本人にとって最適な支援内容を盛り込んだ「支援計画」案が作成されます。この際、ご本人の意思が最大限尊重されます。
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契約締結
- 作成された支援計画案にご本人と社会福祉協議会が合意すれば、契約を締結します。
- 契約書には、支援内容、期間、費用などが明記されます。契約締結能力の確認のため、医師の診断書が必要となる場合もあります。
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支援の開始
- 契約に基づき、担当の生活支援員が定期的にご本人を訪問し、支援計画に沿ったサービス(福祉サービス利用援助、金銭管理援助など)を開始します。
- 生活支援員は、地域住民などから選ばれた社会福祉協議会が委託した人、または社会福祉協議会の職員です。
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定期的な見直し
- 支援内容は、ご本人の状況や希望の変化に合わせて定期的に見直されます。
利用料金はかかるのか
日常生活自立支援事業は、利用したサービス内容に応じて利用料が発生します。料金は都道府県によって異なりますが、生活支援員による訪問や援助活動にかかる費用として、1時間あたり1,200円〜2,000円程度が目安となることが多いです。
ただし、生活保護を受けている方など、経済的に困難な方については、利用料が減免される制度がある場合もあります。具体的な料金体系や減免制度については、利用を検討している社会福祉協議会にご確認ください。
利用する上での留意点
- 本人の意思尊重: この事業は契約に基づくため、ご本人の意思が非常に重要です。支援内容についても、ご本人の意向が最大限尊重されます。
- 支援範囲の確認: 支援の範囲は契約で定められます。どこまでを支援してもらえるのか、契約内容をよく確認することが大切です。
- 生活支援員との関係: 支援は、生活支援員との信頼関係の上に成り立ちます。支援内容について不安や疑問があれば、遠慮なく社会福祉協議会に相談しましょう。
- 書類等の預かり: 通帳や印鑑などの重要書類を社会福祉協議会に預けることも可能ですが、その管理方法についても事前に確認しておくと安心です。
どこに相談すれば良いか
日常生活自立支援事業に関する相談や申し込みは、お住まいの地域の市町村社会福祉協議会または都道府県社会福祉協議会が窓口となります。「〇〇市 社会福祉協議会 日常生活自立支援事業」などで検索すると、連絡先が見つかります。
また、障害のある方の場合は、相談支援事業所の相談支援専門員に相談することも有効です。様々な福祉制度に詳しい相談支援専門員が、ご本人の状況やニーズに合わせて、日常生活自立支援事業を含めた最適な支援について一緒に検討し、社会福祉協議会への橋渡しをしてくれることがあります。
まとめ:制度を理解し、将来への安心につなげる
日常生活自立支援事業は、判断能力に不安がある方が、福祉サービスの利用や金銭管理において適切なサポートを受けながら、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるための大切な仕組みです。
「親亡き後」を見据えた場合、こうした公的な支援制度の存在を知り、ご本人の状況や希望に合わせて活用を検討することは、将来への安心につながります。
この事業以外にも、障害のある方の暮らしを支える様々な制度があります。複雑に感じられるかもしれませんが、まずは地域の社会福祉協議会や相談支援事業所など、専門機関に相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。専門家と共に、ご本人にとって最善のサポート体制を一緒に考えていくことができます。