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障害のある方が自分らしく生きるための意思決定支援:親が知っておくべき制度と準備

Tags: 意思決定支援, 権利擁護, 成年後見制度, 個別支援計画, 親亡き後, 相談支援, 障害福祉サービス

はじめに:意思決定支援の重要性

障害のある方が成人期を迎え、将来の生活を考える上で、「本人の意思」をどのように尊重し、支援していくかは非常に重要な課題となります。特に親御さんが高齢になられたり、将来「親亡き後」の生活を見据えたりする中で、本人がどのような暮らしを望んでいるのか、どのような支援を受けたいのかを把握し、それを実現するための準備を進めることは、本人の安心につながるだけでなく、残されるご家族の負担や不安を軽減するためにも不可欠です。

障害のある方の意思決定支援は、単に本人が物事を自分で決められるように手助けするだけでなく、本人の価値観や思いを理解し、様々な選択肢があることを伝え、その選択を支援する一連のプロセス全体を指します。この記事では、障害のある方の意思決定支援の基本的な考え方や、それに関連する制度、そして親御さんが今からできる準備について解説します。

意思決定支援とは何か?

意思決定支援とは、障害のある方が、自分自身の生活や将来について、自分らしい選択ができるようにサポートすることです。これは、単に「はい」か「いいえ」を答えられるようにすることだけではありません。

意思決定支援の基本的な考え方

意思決定支援は、特定の場面だけでなく、日々の暮らしの中で継続的に行われるべきものです。食事、着替え、外出先など、日常の小さなことから本人の希望を尊重する機会を増やすことが、将来の大きな決定につながる力となります。

意思決定支援に関連する制度や取り組み

障害のある方の意思決定を支援するための様々な制度や仕組みがあります。これらは単体で利用されることもあれば、組み合わせて活用されることもあります。

個別支援計画

障害福祉サービスを利用する際に作成される「個別支援計画」は、意思決定支援を実践する上での重要なツールです。この計画は、利用者の心身の状況、おかれている環境、そして本人や家族の意向を踏まえて作成されます。

計画作成に携わる相談支援専門員は、本人の「こうしたい」「こうなりたい」という思いを引き出し、それが実現できるようにどのようなサービスを組み合わせるかを本人や家族と一緒に考えます。個別支援計画を作成するプロセスそのものが、本人の意思を尊重し、将来の希望を具体的に描くための意思決定支援の場となります。計画は定期的に見直されるため、その都度本人の状況や意向の変化を確認し、支援内容を調整していきます。

成年後見制度

成年後見制度は、判断能力が十分でない方のために、財産管理や身上監護(生活、医療、介護に関する契約など)を支援する制度です。この制度を利用する際にも、本人の意思を最大限に尊重することが求められます。

成年後見制度は法的な支援を伴いますが、制度利用中も、本人の意向を丁寧に確認し、可能な範囲で意思決定に参加してもらう努力が継続して行われます。

日常生活自立支援事業

この事業は、認知症高齢者や知的障害、精神障害のある方で、判断能力が不十分な方が地域で安心して暮らせるよう、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理の援助などを行うものです。

この事業でも、契約の締結から支援の実施に至るまで、本人の意思に基づき、本人の立場に立って支援を行うことが基本原則とされています。専門員(生活支援員)が本人と直接関わり、本人の意向を丁寧に確認しながら、具体的な支援内容を決定・実施していきます。

その他の場面での意思決定支援

上記以外にも、障害のある方が様々な場面で意思決定を行う機会があります。

これらの場面でも、関係者(医師、支援員、施設職員など)は本人の意思を丁寧に確認し、選択を支援することが求められます。国のガイドライン(例: 「障害のある人の意思決定支援ガイドライン」)なども参照され、意思決定支援の質の向上に向けた取り組みが進められています。

親ができる準備と関わり方

親御さんがお子さんの意思決定支援のためにできる準備や日々の関わり方は多岐にわたります。特に将来を見据えた準備は、お子さんの安心した暮らしのために非常に重要です。

1. 日頃からのコミュニケーションと本人の意思の把握

最も基本的なことですが、日々の生活の中で、お子さんとのコミュニケーションを大切にし、お子さんの「好き」「嫌い」「心地よい」「嫌だ」といった感情や意思を丁寧に読み取ろうと努めることが重要です。言葉での表現が難しくても、表情、声の調子、体の動きなど、様々なサインから本人の意向を理解しようとすることが、将来の大きな意思決定の基礎となります。

2. 本人の意思や価値観の記録

日々のコミュニケーションや観察を通じて分かった本人の好み、こだわり、ルーティン、過去の経験から来る喜びや悲しみ、そして将来「こうなったら嬉しいだろう」といった推測も含めて、具体的に記録しておくことをお勧めします。

これらの記録は、「親亡き後」にお子さんの支援を引き継ぐ人(成年後見人、施設の職員、相談支援専門員など)にとって、本人のことを理解し、本人の意向に沿った支援を行うための貴重な情報源となります。「私のトリセツ」のような形で、写真や動画も交えて作成しておくと、より伝わりやすくなります。

3. 将来に関する話し合い(可能な範囲で)

お子さんの理解力や表現力に合わせて、将来の生活について可能な範囲で話し合ってみることも大切です。例えば、「お母さんがいなくなった後、どこで暮らしたいかな?」「どんな人と一緒にいたい?」など、具体的な場所や人をイメージできるような質問を投げかけてみたり、絵や写真を見せながら話し合ったりする方法が考えられます。すぐに答えが出なくても、話し合う時間を持つこと自体が、お子さんが将来について考えるきっかけになります。

4. 専門家との連携と相談

地域の相談支援事業所、市町村の福祉課、社会福祉協議会など、障害福祉の専門機関に早めに相談しておくことが重要です。相談支援専門員は、お子さんの心身の状況やご家族の希望を踏まえ、将来の生活設計や必要な支援について一緒に考えてくれます。

また、成年後見制度やその他の法的な手続きについて知りたい場合は、弁護士や司法書士、社会福祉士など、権利擁護に関する専門家に相談することも有効です。これらの専門家は、本人の意思決定を支援する観点から、どのような制度が利用可能か、どのような準備が必要かについて具体的なアドバイスを提供してくれます。

5. 将来の支援者への情報共有の準備

成年後見制度を利用する場合、任意後見契約を結ぶ場合、あるいはグループホームなどの施設に入所する場合など、将来お子さんの支援を担う人が決まった際に、これまでに収集・記録した本人の意思や価値観に関する情報を適切に引き継げるように準備しておきます。上記で触れた「本人のトリセツ」のようなものが役立ちます。また、任意後見制度を利用する場合は、契約内容に本人の希望を可能な限り具体的に盛り込むことが重要です。

どこに相談すれば良いか

障害のある方の意思決定支援や将来の生活設計に関する相談は、以下の機関で受け付けています。

複数の機関に相談し、お子さんにとって最も適切な支援や準備を進めていくことが大切です。

まとめ

障害のある方が自分らしく生きるためには、本人の意思決定を尊重し、そのプロセスを支援することが不可欠です。特に成人期以降、そして「親亡き後」を見据える上で、これはますます重要になります。

意思決定支援は、特別なことではなく、日々のコミュニケーションを土台とし、本人の思いを丁寧に読み取ることから始まります。そして、個別支援計画や成年後見制度など、様々な制度や仕組みを活用しながら、本人の希望が将来の暮らしに反映されるように準備を進めていくことが求められます。

親御さんが今からできる準備としては、日頃からのお子さんとの関わりを大切にし、本人の意思や価値観を記録に残しておくこと、そして地域の相談支援事業所や専門家など、頼れる機関に早めに相談することが挙げられます。

将来に対する不安を抱えることは自然なことですが、適切な情報収集と計画的な準備、そして様々な支援機関との連携によって、その不安を軽減し、お子さんが将来も安心して自分らしく暮らせる道筋をつけることが可能です。この記事が、その一助となれば幸いです。