障害のある成人した子の「親亡き後」に備える 各分野の困りごとと頼れる相談先
はじめに:親亡き後の生活、様々な困りごとにどう備えるか
お子様が成人され、親御様がその生活を支える中で、多くの方が「自分がいなくなった後、この子の生活はどうなるのだろうか」という不安を抱かれるかと思います。障害のある方の親亡き後の生活については、住居やケア、財産管理など、様々な側面にわたる検討が必要です。
特に、親御様が担っていた役割の一部またはすべてを引き継ぐ人がいない場合や、予期せぬ出来事によって状況が変化した場合に、どのような困りごとが発生しうるのか、そしてその際にどこに相談すれば良いのかを知っておくことは、将来の安心につながります。
この記事では、親亡き後に障害のある方が直面する可能性のある具体的な困りごとをいくつかの分野に分けて整理し、それぞれの状況に応じた相談先や、事前の準備について解説します。
親亡き後に想定される主な困りごと
親御様が亡くなられた後、障害のある方が直面する可能性のある困りごとは多岐にわたります。主なものを分野別に見てみましょう。
1. 住居に関すること
- 住み慣れた場所を離れる必要が生じる: 親御様との持ち家や賃貸住宅に住んでいた場合、相続や契約の関係でそのまま住み続けられなくなる可能性があります。
- 新しい住まいが見つからない/適応できない: 新しい住まい(グループホーム、ケアホーム、一人暮らしなど)を探す必要が生じても、本人の希望や状態に合った場所が見つかりにくい、あるいは見知らぬ環境に適応することが難しい場合があります。
- 住居に関する手続きができない: 賃貸契約の更新、住宅ローンの手続き、設備の修繕手配など、住居に関する様々な手続きを自分で行うことが難しい場合があります。
2. お金・財産管理に関すること
- 日々の生活費の管理ができない: 年金や障害年金、相続した財産などがあっても、計画的に使い、管理することが難しい場合があります。
- 詐欺や悪徳商法に遭うリスク: 適切な判断が難しい場合、財産を失うリスクがあります。
- 公共料金や税金などの支払いが滞る: 請求書を理解し、期日までに正確に支払い手続きを行うことが困難な場合があります。
- 銀行や役所での手続きができない: 口座の管理、年金の受給手続き、行政サービスに関する申請など、複雑な手続きを行うことが難しい場合があります。
3. 健康・医療に関すること
- 体調不良を適切に伝えられない/気づけない: 自身の体調の変化を周囲に伝えることや、病気の初期症状に気づくことが難しい場合があります。
- 病院への通院や受診手続きができない: 予約、移動、受診手続き、医師への症状説明などを自分で行うことが困難な場合があります。
- 服薬管理ができない: 薬の種類や量を間違えたり、飲み忘れたりするリスクがあります。
- 病気の治療方針やケアについて意思決定ができない: 自身の健康状態や治療について、適切に理解し、判断することが難しい場合があります。
4. 日々の生活・ケアに関すること
- 必要な障害福祉サービスが利用できない/見直せない: 身体介護、家事援助、行動援護など、日々の生活に必要なサービスの種類や量を適切に判断し、申請・利用の手続きや、状況に応じた見直しを行うことが難しい場合があります。
- 人間関係のトラブル: 共同生活や地域生活において、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、孤立したりトラブルになったりする可能性があります。
- 虐待や権利侵害: 財産搾取、身体的・精神的な虐待など、第三者からの不当な扱いを受けるリスクがあります。
- 緊急時の対応ができない: 災害時や急病時などに、適切に避難したり、助けを求めたりすることが難しい場合があります。
5. 権利・手続きに関すること
- 様々な契約の締結や履行ができない: 携帯電話、インターネット、サービス利用など、日常生活で必要な契約内容を理解し、手続きを行うことが困難な場合があります。
- 相続手続きができない: 親御様の遺産分割協議や名義変更など、相続に関する手続きを自分で行うことが難しい場合があります。
- 行政手続きができない: 福祉サービスの更新手続き、各種申請、公的な給付金の受け取りなど、役所での手続きを適切に行うことが難しい場合があります。
困りごと別の具体的な相談先
親亡き後に発生する可能性のあるこれらの困りごとに対して、一人で抱え込まずに相談できる様々な機関や専門職が存在します。
1. 全般的な相談・コーディネート
複数の困りごとが複合している場合や、まずどこに相談すれば良いか分からない場合は、以下の機関が最初の窓口として適しています。
- 相談支援事業所: 障害のある方やそのご家族からの相談に応じ、必要な情報提供や助言を行い、サービス等利用計画(個別支援計画)の作成や関係機関との連絡調整を行います。まさに、様々な困りごとを整理し、解決に向けた道筋をつける中心的な役割を担います。地域移行や親亡き後を見据えた支援計画の作成も依頼できます。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: 障害福祉サービス全般に関する情報提供や申請受付を行います。地域の福祉制度に詳しく、適切な相談先を紹介してくれる場合もあります。
- 地域包括支援センター(主に高齢者向けですが、連携している場合もあります): 地域の高齢者の総合相談窓口ですが、障害のある方で高齢化が進んでいる場合など、連携して対応してくれることもあります。
2. 分野別の具体的な相談先
特定の困りごとについては、専門的な機関に相談することが効果的です。
- 住居に関すること:
- 相談支援事業所: グループホームや入所施設、その他の住居に関する情報提供や見学調整など、住まい探しや移行のサポートをしてくれます。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: 地域の障害者向け住宅に関する情報を持っている場合があります。
- 社会福祉協議会: 福祉的な観点からの住居に関する相談に乗ってくれることがあります。
- お金・財産管理に関すること:
- 相談支援事業所: 金銭管理に関する相談や、後見制度などの情報提供を行います。
- 成年後見制度に関する相談先(弁護士会、司法書士会、社会福祉協議会など): 成年後見制度の利用を検討する場合に、制度の概要や手続きについて相談できます。
- 社会福祉協議会: 日常的な金銭管理に不安がある方向けの「日常生活自立支援事業」など、具体的な支援サービスに関する相談ができます。
- 銀行: 口座に関する手続きや、相続した財産に関する相談ができます。
- 消費生活センター: 悪徳商法など消費者トラブルに関する相談ができます。
- 健康・医療に関すること:
- かかりつけ医: 日常的な健康管理や体調不良に関する相談の最も身近な窓口です。
- 保健所/精神保健福祉センター: 地域の精神保健や医療に関する専門的な相談ができます。
- 相談支援事業所: 医療機関との連携や、通院に必要なサービスの手配(通院等介助など)について相談できます。
- 日々の生活・ケアに関すること:
- 相談支援事業所: 障害福祉サービスの利用に関するあらゆる相談に応じます。サービス内容の見直しや事業所との調整なども依頼できます。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: サービス事業所に関する情報提供や、制度に関する相談ができます。
- 虐待防止センター/市区町村の虐待対応窓口: 障害のある方への虐待が疑われる場合に相談・通報できます。
- 警察: 権利侵害や犯罪行為に関する相談・被害届の提出などができます。
- 権利・手続きに関すること:
- 相談支援事業所: 様々な手続きに関する情報提供や、必要な支援の調整を行います。
- 成年後見制度に関する相談先(弁護士会、司法書士会、社会福祉協議会など): 契約や手続きに関する判断能力に不安がある場合、後見制度について具体的に検討できます。
- 弁護士会/司法書士会: 相続、契約トラブル、権利侵害など、法的な問題に関する専門的な相談ができます。
- 行政書士: 相続手続きや各種許認可申請など、行政手続きに関する相談ができます。
事前の準備としてできること
親亡き後に困りごとが発生した際に慌てないためにも、親御様が元気なうちから準備を進めておくことが非常に重要です。
- 信頼できる相談支援事業所を見つける: 将来にわたる継続的な相談相手として、本人や親御様の意向を尊重し、信頼できる相談支援専門員がいる事業所を見つけておくことが大切です。定期的に面談を行い、本人の状態や将来への希望を共有しておきましょう。
- 個別支援計画を親亡き後を見据えた内容にする: 現在利用している、または将来利用を検討するであろう障害福祉サービスの計画を、親亡き後の生活も見据えた内容で作成・見直しを行います。生活全体を支える計画として、住居、日中活動、健康管理、余暇活動など、様々な側面を盛り込みます。
- 財産管理や成年後見制度について検討し、専門家に相談する: お金の管理が難しい場合、どのような方法で財産を守り、生活費を管理していくか具体的に検討します。成年後見制度の利用が必要か、任意後見契約を検討するかなど、早い段階で弁護士や司法書士、社会福祉協議会などの専門機関に相談してみましょう。
- 関係機関とのネットワークを築く: 相談支援事業所だけでなく、日中活動系の事業所、グループホーム、医療機関、かかりつけの専門職など、本人の生活に関わる様々な機関との連携体制を親御様が中心となって築いておくことも有効です。
- 緊急時の連絡先リストや情報共有の仕組みを作る: 親御様に何かあった際に、誰に連絡すれば良いか、本人の健康状態や薬、支援に関する重要な情報がどこにあるかなどを整理し、関係者(親族、相談支援専門員、支援事業所など)が共有できる仕組みを作っておくことが大切です。
まとめ:一人で抱え込まず、多様なサポートを活用しましょう
障害のある方の親亡き後の生活には、住居、お金、健康、日々のケアなど、様々な場面で困りごとが発生する可能性があります。しかし、大切なのは、これらの課題に対して一人で向き合わなければならないわけではない、ということです。
障害福祉サービスを提供する事業所、市区町村の福祉窓口、成年後見制度に関する専門家、医療機関など、多様な相談先が存在します。特に相談支援事業所は、様々な困りごとを整理し、必要なサービスや他の専門機関につなぐコーディネーターとしての役割を担います。
将来への不安を抱え込まず、まずは身近な相談支援事業所や市区町村の窓口に相談してみることから始めてみましょう。そして、親御様が元気なうちから計画的に準備を進め、関係機関との連携体制を築いておくことが、将来の安心につながる最も確実な方法です。多様なサポートを上手に活用しながら、お子様が親亡き後も安心して自分らしい生活を送れるよう、共に道を考えていきましょう。