障害のある成人した子の親亡き後 住まい選びの選択肢と後悔しないための検討ステップ
はじめに:親亡き後の住まい、どのように考えればよいでしょうか
障害のある成人したお子さんを持つ親御さんにとって、「自分たちが年老いたり亡くなったりした後、この子がどこで、どのように暮らしていくのか」という住まいに関する不安は、大変大きなものの一つかと思います。自宅でずっと一緒に暮らすことが難しくなった場合、どのような選択肢があるのか、どこに相談すれば良いのか、漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
親亡き後の住まいについては、様々な選択肢があり、それぞれに特徴があります。そして、その検討は早めに始めることが大切です。この記事では、障害のある成人した方が親亡き後も安心して暮らせるよう、どのような住まいの選択肢があるのか、そして、お子さんにとって最適な場所を見つけるための検討ステップについて解説します。
親亡き後を見据えた住まい選びの重要性
お子さんが成人され、親御さんも高齢になってくると、これまでのようにご自宅でのケアを続けることが身体的・物理的に難しくなる場合があります。また、親亡き後の生活を考えたとき、お子さんが一人になった後、どのような環境で暮らすことが本人にとって最も安心で、かつ必要なサポートを受けられるのかを具体的に検討する必要があります。
住まいの選択は、お子さんのその後の生活の質に大きく関わる重要な決定です。しかし、選択肢は多岐にわたり、それぞれにメリット・デメリット、利用条件があります。また、施設やグループホームの利用には待機期間が生じることも少なくありません。そのため、親御さんが元気なうちに、お子さんの意思や状況、将来の可能性を踏まえて、じっくりと情報収集を行い、検討を進めることが非常に重要となります。
親亡き後を見据えた住まいの主な選択肢
障害のある成人した方の住まいとしては、主に以下の選択肢が考えられます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. 自宅での生活継続(居宅系サービス等の活用)
親御さんがお元気なうちはもちろん、親亡き後も、必要な支援を受けながら、住み慣れたご自宅で生活を続けるという選択肢です。
- 特徴:
- 住み慣れた環境で生活できる。
- 地域のコミュニティとのつながりを維持しやすい。
- 障害福祉サービスである居宅介護や重度訪問介護、行動援護などを活用して、身体介護や家事援助、外出支援などを受けることができます。
- 親亡き後も、相談支援事業所のサポートやホームヘルパーの利用などにより、単身での生活を続けるケースもあります。
- メリット: 環境の変化が少ないため、落ち着いて生活しやすい場合があります。柔軟な時間でサービスを利用できる可能性があります。
- デメリット: 必要な支援量を確保できるか、サービス提供事業所が見つかるか、といった課題があります。親亡き後、一人で生活を続ける場合は、緊急時の対応や見守り体制をしっかりと構築する必要があります。建物のバリアフリー化が必要な場合もあります。
- 検討すべきポイント: 必要な介助量と利用できるサービスの上限、サービス提供事業所の状況、緊急時の対応、金銭管理を誰が担うか、などを具体的に検討する必要があります。
2. グループホーム(共同生活援助)
障害のある方が地域の中で、数人単位で共同生活を送る住まいです。世話人等による生活上の相談や食事の提供などの支援を受けながら、自立した日常生活を送ることを目指します。
- 特徴:
- アパートや一戸建てなどを改修した建物で、個室とリビングやキッチンなどの共用部分がある形態が一般的です。
- 世話人や生活支援員が配置され、食事、入浴、排泄、金銭管理、服薬管理などの日常生活上の援助や、日中活動の場との連絡調整などのサポートを提供します。
- 夜間や休日に支援を行う夜間支援員等が配置されている事業所もあります。
- メリット: 地域の中で暮らすことができ、他の利用者との交流も生まれます。必要な生活支援を受けながら、ある程度のプライバシーも確保できます。費用が比較的抑えられる場合があります。
- デメリット: 他の利用者との共同生活であるため、人間関係の調整が必要な場合があります。支援体制は事業所によって異なり、手厚いサポートが必要な場合は対応可能な事業所を探す必要があります。部屋数に限りがあり、希望する事業所に入居するまでに待機期間が生じることもあります。
- 検討すべきポイント: 提供される支援内容がお子さんのニーズに合っているか、共同生活になじめるか、事業所の雰囲気、立地(日中活動の場や医療機関へのアクセスなど)、費用(家賃、食費、水光熱費、サービス費用の自己負担分など)などを確認しましょう。
3. 入所施設(施設入所支援)
障害のある方が施設に入所し、生活介護や自立訓練、就労移行支援などの日中活動と併せて、夜間や休日の介護や生活支援を受けることができる住まいです。
- 特徴:
- 多くの場合は、一つの建物の中に複数の居室があり、食堂や浴室、機能訓練室などの共用設備が整っています。
- 日中活動と一体的にサービスが提供される場合が多く、施設内で活動を完結できる場合もあります。
- 比較的重度の障害がある方や、常に一定の支援や見守りが必要な方が多く利用しています。
- メリット: 24時間体制で手厚い支援や見守りを受けやすい環境です。日中活動の場が併設されていることが多く、生活と活動の連携がスムーズです。専門的なケア(医療的ケアなど)に対応している施設もあります。
- デメリット: 地域とのつながりが薄れやすい場合があります。集団生活であるため、個人の生活スタイルやプライバシーに制限がある場合があります。費用がグループホームと比較して高額になる場合があります。希望する施設に入所するまでに、グループホームと同様に待機期間が長期化することがあります。
- 検討すべきポイント: 施設の支援体制(医療的ケアへの対応の有無など)、日中活動の内容、施設の雰囲気、他の利用者との関係性、立地、費用などを確認しましょう。特にお子さんの障害特性や必要なケアに施設が対応可能かどうかが重要です。
どの選択肢を選ぶか?検討すべきポイント
お子さんの親亡き後の住まいを検討する際には、以下の点を多角的に考慮することが大切です。
- 本人の意思・希望: お子さん自身の気持ちや希望を、可能な限り尊重することが最も重要です。たとえ言葉での表現が難しくても、表情や行動、これまでの経験などを通して、本人の意思を汲み取る努力が必要です。意思決定支援の視点も大切になります。
- 障害の種類や程度、必要なサポート内容: どのような種類の障害があり、日常生活で具体的にどのようなサポートが必要かを整理します。身体介護、行動援護、医療的ケア、金銭管理、服薬管理など、必要な支援の量と質によって適した住まいやサービスが異なります。
- 親の状況、経済状況: 親御さんの年齢や健康状態、介護の負担、経済的な状況も考慮に入れる必要があります。また、お子さんの将来的な収入(障害年金、就労収入など)や利用できる制度(高額障害福祉サービス等利用費、特定障害者特別給付など)も踏まえて、費用の負担が可能か検討します。
- 利用可能なサービス、地域の資源: 検討している住まいの近隣で、必要な障害福祉サービス(居宅介護、日中活動サービスなど)や医療機関、相談支援事業所などが利用可能か、そのサービスの質や量を確認します。
- 将来的な変化への対応: お子さんや親御さんの状況は変化していく可能性があります。将来的に必要となる支援が変わった場合や、親御さんの状況が変わった場合に、現在の住まいや支援体制が対応できるか、あるいは別の選択肢へ移行しやすいか、といった見通しを持つことも重要です。
後悔しないための検討ステップ
親亡き後の住まい選びは、一度決めたら簡単に変えられない場合が多く、後悔のないように慎重に進めたいものです。以下のステップで検討を進めることをお勧めします。
ステップ1:情報収集と相談
まずは様々な住まい方や利用できる制度について情報収集を行います。そして、最も頼りになるのが市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所です。相談支援専門員は、お子さんの状況や希望を踏まえ、利用できる制度やサービス、適切な住まい方について専門的な知識を持ってアドバイスしてくれます。複数の事業所や施設から情報を得ることも大切です。
ステップ2:見学や体験利用
気になるグループホームや入所施設が見つかったら、必ず見学に行きましょう。施設の雰囲気、職員の様子、他の利用者の様子、居室や共用スペースの設備などを実際に見て確認します。可能であれば、短期入所(ショートステイ)などを活用して、体験利用をしてみることも、お子さんや親御さんにとって、その環境が合うかどうかを判断する上で非常に有効です。
ステップ3:個別支援計画の作成
障害福祉サービスを利用するためには、「サービス等利用計画」の作成が必要です。これは、お子さんの意向やニーズに基づき、どのようなサービスを組み合わせて利用するかを具体的に定めた計画です。相談支援専門員が作成をサポートしてくれます。住まいが変わる場合、この計画も見直しが必要になります。
ステップ4:関係者との連携
お子さんの親亡き後の生活を支えるためには、親族(きょうだいなど)、相談支援事業所、市区町村、利用するサービス事業所、医療機関など、様々な関係者との連携が不可欠です。検討段階から、将来お子さんを見守り支えてくれる可能性のある方々と情報を共有し、協力体制を築いていくことが重要です。
ステップ5:定期的な見直し
一度住まいや支援体制を決めた後も、定期的にお子さんの状況や生活の様子を確認し、必要に応じて個別支援計画を見直したり、別の選択肢を再検討したりすることも大切です。お子さんの成長や加齢、親御さんの状況の変化など、様々な要因によって必要な支援は変わっていく可能性があるからです。
住まいと合わせて考えるべきこと
親亡き後の住まいを考えることは、生活全体を考えることにつながります。住まいと合わせて、以下の点についても検討を進めておくことが重要です。
- ケア・日中活動: 必要な身体介護や生活支援、また日中の活動の場(生活介護、就労継続支援など)をどのように確保するか。
- 金銭管理・財産管理: 親亡き後、お子さん名義の預貯金や年金などを誰が管理し、どのように生活費やサービス費用に充てていくか。
- 権利擁護: お子さん自身の意思決定が難しい場合や、契約などの法律行為が必要になった場合に、誰がその役割を担うのか。成年後見制度などの利用も検討する必要があります。
これらの課題についても、相談支援事業所や、必要に応じて弁護士、司法書士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家と連携して準備を進めることが安心につながります。
相談できる窓口
親亡き後の住まいや生活に関する不安、制度について知りたい場合は、まずは以下の窓口に相談してみましょう。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: お住まいの地域の障害福祉サービスに関する情報を提供しています。
- 相談支援事業所: 障害のある方の様々な相談に応じ、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行います。地域の相談支援事業所については、市区町村の窓口に問い合わせるか、インターネットで検索することができます。
- 地域包括支援センター(高齢者の場合): 親御さんご自身の介護や生活に関する相談ができます。
- 障害者基幹相談支援センター: より専門的・総合的な相談支援を行います。
これらの窓口で、現在の状況や将来の不安について具体的に話を聞いてもらい、必要な情報提供や助言を受けることから始めてみてください。
まとめ
障害のある成人したお子さんの親亡き後の住まいについて考えることは、親御さんにとって大変な課題ですが、早期に情報収集を始め、様々な選択肢とその特徴を理解し、お子さんの意思やニーズを踏まえて多角的に検討を進めることが、将来の安心につながります。
一人で抱え込まず、相談支援事業所などの専門機関のサポートを得ながら、お子さんにとって最もふさわしい、安心できる住まいと暮らし方を一緒に見つけていくことが大切です。希望を持って、一歩ずつ準備を進めていきましょう。