障害者手帳とは? 成人した方の手帳取得・更新手続きと受けられる福祉サービス、医療費助成、就労支援などのメリットを解説
はじめに
障害や病気を抱える方が社会生活を送る上で、様々な支援やサービスを利用するための手がかりとなるのが「障害者手帳」です。特に成人期を迎えた後、親亡き後を見据えた自立支援や生活設計を考える上で、障害者手帳の存在は非常に重要になります。
障害者手帳は、単なる証明書ではなく、個々の状況に応じた福祉サービス、医療費の助成、税制上の優遇、公共料金の割引など、様々な支援を受けるための重要な「パスポート」としての役割を果たします。
この記事では、成人した方が障害者手帳を取得・更新するための手続きの基本から、手帳を持つことで具体的にどのようなメリットや支援が受けられるのかについて、分かりやすく解説いたします。将来の安心のために、ぜひご一読ください。
障害者手帳とは? 制度の基本を知る
障害者手帳は、障害の種類や程度に応じて交付される公的な証明書です。これにより、様々な福祉制度やサービスを利用できるようになります。障害者手帳には、大きく分けて以下の3種類があります。
- 身体障害者手帳: 身体の機能に永続的な障害がある方に交付されます。視覚、聴覚、平衡機能、音声・言語・そしゃく機能、肢体不自由、心臓、じん臓、呼吸器、ぼうこう・直腸、小腸、免疫、肝臓の機能障害などが対象となります。
- 精神障害者保健福祉手帳: 精神疾患により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方に交付されます。統合失調症、うつ病、てんかん、発達障害、高次脳機能障害などが対象となります。
- 療育手帳: 知的障害のある方に交付されます。この手帳は法律に基づくものではなく、各自治体の判断により独自に制度を定めています。名称も自治体によって異なる場合があり、「愛の手帳」「みどりの手帳」などと呼ばれていることもあります。
これらの手帳は、取得することで様々な支援の対象となり、障害のある方が社会参加し、自立した生活を送ることを支援することを目的としています。
成人した方が障害者手帳を取得・更新する手続き
障害者手帳をこれから取得したい、あるいは更新したいと考えている場合、まずは申請手続きを行う必要があります。手続きの基本的な流れは以下の通りです。
新規申請の流れ
- 相談: まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談します。申請に必要な書類や手続きの詳細について説明を受けることができます。
- 申請書類の準備: 申請には、指定された様式の診断書、申請書、顔写真などが必要です。診断書は、手帳の種類ごとに定められた医師に作成してもらう必要があります。
- 申請: 準備した書類を市区町村の窓口に提出します。
- 審査・判定: 提出された書類に基づき、各都道府県や指定都市で審査・判定が行われます。診断書の内容や、必要に応じて面談などが行われることがあります。療育手帳の場合は、児童相談所(18歳未満)や知的障害者更生相談所(18歳以上)などで判定を受けるのが一般的です。
- 手帳の交付または不交付決定: 審査の結果、手帳が交付されるか、不交付となるかが決定されます。交付される場合は、手帳が郵送されるか、窓口で受け取ります。
更新手続きの流れ
障害者手帳には有効期限が定められているものがあります(例: 精神障害者保健福祉手帳は2年)。有効期限の3ヶ月前頃から更新手続きを行うことができます。更新手続きの詳細は手帳の種類や自治体によって異なりますが、多くの場合、再度診断書の提出が必要となります。市区町村の窓口から更新時期が近づいた旨の通知が届くことがありますので、確認が必要です。
障害者手帳を持つことで受けられる主なメリット
障害者手帳を取得することで、様々な公的支援やサービス、割引などが受けられるようになります。主なメリットは以下の通りです。
1. 障害福祉サービスの利用
障害者手帳は、障害福祉サービスを利用するための重要な入り口となります。サービスの利用には別途「障害福祉サービス等申請」を行い、「障害支援区分」の認定を受ける必要がありますが、手帳を持っていることでスムーズに手続きを進めやすくなります。
- 具体例: 居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、行動援護、短期入所(ショートステイ)、施設入所支援、生活介護、就労移行支援、就労継続支援など、多岐にわたるサービスが対象となります。
2. 医療費の助成制度
障害や病気に関連する医療費の自己負担額を軽減する制度があります。
- 自立支援医療: 精神疾患、結核、腎臓機能障害など、特定の病気に対する医療費の自己負担額が軽減されます。精神通院医療、更生医療、育成医療の3種類があり、障害者手帳の種類や状況に応じて対象となる場合があります。
- 自治体独自の医療費助成: 各自治体が高齢者や障害者などを対象に、医療費の自己負担分の一部または全部を助成する制度を設けている場合があります。手帳の等級や年齢によって対象が異なります。
3. 税制上の優遇措置
所得税や住民税において、障害者控除などの優遇措置が受けられます。本人だけでなく、控除対象扶養親族などが障害者である場合も対象となることがあります。
- 障害者控除: 本人または扶養親族が障害者の場合に受けられる控除です。手帳の等級によって控除額が異なります(特別障害者、同居特別障害者など)。
- 相続税の控除: 障害のある方が相続人である場合、相続税から一定額が控除されます。
- 贈与税の非課税措置: 特定の信託契約に基づき、障害のある方に財産を贈与する場合、一定額まで非課税となる制度があります。
4. 公共交通機関の割引
手帳を提示することで、公共交通機関の運賃割引が受けられる場合があります。
- JR運賃の割引: 手帳の等級や、単独で利用するか介助者とともに利用するかによって割引率が異なります。
- 民営鉄道、バス、タクシーなどの割引: 各事業者によって割引制度の有無や内容が異なります。
- 国内航空運賃の割引: 一部の航空会社で割引運賃が設定されています。
5. 公共施設やレジャー施設の割引
美術館、博物館、動物園、植物園、遊園地、映画館など、多くの公共施設や民間の施設で、手帳を提示することで入場料や利用料の割引、または無料となる制度が設けられています。介助者も割引の対象となる場合があります。
6. 携帯電話料金の割引
多くの携帯電話会社が、障害のある方向けの料金割引プランやサービスを提供しています。手帳を提示して契約することで適用されます。
7. 就労支援
障害者手帳を持っていることは、就職活動において様々な支援を受けるための手がかりとなります。
- 障害者雇用枠での就職: 企業には法定雇用率が定められており、障害者手帳を持っている方は障害者雇用枠での就職を目指すことができます。ハローワークには専門窓口が設置されており、きめ細やかな支援を受けることができます。
- 就労移行支援事業所などの利用: 一般企業への就職を目指す障害のある方向けに、就職に必要な知識や能力を養うための訓練や、求職活動のサポートを行う事業所です。手帳を持っていることで利用がスムーズになる場合があります。
手帳を活用するためのポイントと注意点
- 常に携帯する必要はありません: 日常的に手帳を携帯する必要はありませんが、サービス利用時や割引を受ける際に提示を求められることがあります。コピーや、最近ではスマートフォンのアプリで手帳情報を提示できる場合もあります(自治体によって対応が異なります)。
- サービス利用には別途手続きが必要: 手帳を持っているだけでは自動的にサービスが受けられるわけではありません。それぞれのサービスや割引を利用するためには、別途申請や手続きが必要となる場合がほとんどです。
- 等級によって受けられる支援が異なる: 手帳には等級があり、等級によって受けられるサービスや割引の内容が異なる場合があります。
相談先
障害者手帳の取得や、手帳を活用して受けられるサービスについて知りたい場合は、以下の窓口に相談することができます。
- お住まいの市区町村 障害福祉担当窓口: 申請手続き全般や、地域で利用できるサービスについて最も身近な相談先です。
- 相談支援事業所: 障害のある方の生活全般に関する相談に応じ、サービス等利用計画の作成支援なども行います。手帳取得後の具体的なサービス利用について相談できます。
- 各都道府県の障害者更生相談所、精神保健福祉センター、児童相談所・知的障害者更生相談所: 手帳の判定に関わる機関であり、専門的な相談も可能です。
- ハローワーク: 就労に関する相談や、障害者雇用に関する情報を提供しています。
まとめ
障害者手帳は、成人した障害のある方が、より安心して地域で暮らし、社会参加するための重要なツールです。手帳を取得・更新することで、福祉サービス、医療費助成、税制上の優遇、各種割引、就労支援など、多岐にわたるメリットを享受できます。
手続きは少し複雑に感じられるかもしれませんが、お住まいの市区町村の窓口や相談支援事業所に相談することで、適切なサポートを受けながら進めることができます。障害者手帳の取得は、ご本人の生活の質の向上だけでなく、ご家族が将来の生活設計を考える上でも大きな助けとなります。ぜひこの機会に、手帳について改めてご理解いただき、必要に応じて手続きを進めてみてください。