障害のある成人した子の将来のために 親が元気なうちに集めておきたい情報リストと整理方法
はじめに:親亡き後のために、今からできること
障害のあるお子様が成人され、親御様が「この先、自分がいなくなった後、この子はどのように暮らしていくのだろうか」と将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、これまで親御様が中心となってお子様の生活や医療、福祉サービス利用に関する様々な手続きや管理を行ってきた場合、親亡き後にお子様やその支援者が困らないよう、情報を整理しておくことの重要性を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
膨大で多岐にわたる情報を、どのように集め、整理し、誰に引き継げば良いのか。どこから手をつけて良いか分からないと感じることもあるかもしれません。
この記事では、障害のある成人したお子様が親亡き後も安心して暮らせるよう、親御様が元気なうちに取り組んでおきたい「情報の収集と整理」について、具体的にどのような情報を集めるべきか、そしてそれをどのように管理・活用していくかについて解説します。情報の整理は、親亡き後のためだけでなく、日々の生活を円滑に進める上でも役立ちます。
なぜ、親が元気なうちに情報を整理する必要があるのか
親御様が担っているお子様に関する情報は、日常生活、医療、福祉サービス、経済的なこと、人間関係など、非常に広範にわたります。これらの情報が親御様だけしか把握していない状態では、親亡き後にお子様の生活を支える方が、必要な情報にすぐにアクセスできず、以下のような様々な場面で支障をきたす可能性があります。
- 医療・健康上の緊急時: お子様の病歴、アレルギー、服薬情報、かかりつけ医の情報などが分からず、適切な医療を受けさせるのが遅れる。
- 福祉サービスの継続利用: サービス事業所や担当の相談支援専門員との連携、個別支援計画の内容などが分からず、必要なサービスを受けられなくなる。
- 経済的な管理: 収入源(年金など)、銀行口座、定期的な支出などが分からず、日々の生活費の管理や支払いなどが滞る。
- 成年後見人等への引継ぎ: お子様の生活状況、好み、関わる人などの情報が不足し、成年後見人等が円滑に支援を開始できない。
- 災害や予期せぬ事態: 緊急連絡先や避難場所に関する情報が整理されておらず、安全確保が難しくなる。
親が元気なうちにこれらの情報を集め、分かりやすい形で整理しておくことは、お子様が将来必要とする支援をスムーズに受けられるようにするための、非常に重要な準備です。
親が元気なうちに集めておきたい「情報リスト」
お子様の将来のために、親御様がぜひ集め、整理しておきたい情報の具体例をカテゴリ別にリストアップします。お子様の状況によって必要な情報は異なりますが、参考にしてください。
1. 基本的な個人情報
- 氏名、生年月日、現住所、連絡先(電話番号、メールアドレス)
- 本籍地、住民票の所在地
- マイナンバー、基礎年金番号、健康保険証情報
- 戸籍謄本、住民票の写しの保管場所
2. 医療・健康に関する情報
- 病歴、現在の病状、アレルギー(食品、薬剤など)
- 現在服用している薬の名前、量、服用のタイミング
- かかりつけ医、専門医、歯科医の氏名、医療機関名、連絡先
- 過去の大きな手術や入院の記録
- 健康診断の結果、予防接種の記録
- 緊急時の連絡先医療機関、持病発作時の具体的な対応方法
- お薬手帳、診察券の保管場所
3. 障害に関する情報
- 障害の種類、等級、診断名
- 障害者手帳(身体、療育、精神)の情報(番号、交付日、有効期限)と保管場所
- 障害支援区分(現在の区分、認定日、有効期限)
- 利用中の障害福祉サービスの種類、支給決定量
- サービス等利用計画(個別支援計画)の内容と保管場所
- 利用しているサービス事業所名、担当者名、連絡先
- 担当の相談支援専門員(事業所名、氏名、連絡先)
4. 福祉・制度に関する情報
- 受給している年金(障害年金など)、手当(特別障害者手当など)の種類、振込先口座
- 医療費助成制度(自立支援医療など)の利用状況
- 利用している公的扶助(生活保護など)に関する情報
- 市区町村の障害福祉担当部署の連絡先
- 地域包括支援センターの連絡先(親御様自身の高齢に関する情報も含む)
- 将来利用したい可能性のある施設やグループホームなどの情報(候補、連絡先など)
5. 財産・金銭に関する情報
- 銀行口座(銀行名、支店名、口座番号、名義、通帳・キャッシュカードの保管場所)
- 郵便貯金、証券口座、保険契約に関する情報
- 不動産(所有の有無、場所)
- 借入金やローンに関する情報
- 定期的に発生する支出(家賃、公共料金、サービス利用料、税金、保険料など)と支払方法
- 年金や手当の振込先口座
- 印鑑(実印、銀行印、認印)の保管場所
6. 日々の生活・ケアに関する情報
- 一日の生活リズム(起床、就寝、食事、活動時間など)
- 食事の好み、アレルギー、禁止されている食品、介助の必要性
- 排泄、入浴、着替えなどの介助方法
- コミュニケーションの方法(言葉以外での伝え方、理解の得意不得意など)
- 好きなこと、嫌いなこと、こだわり、落ち着く方法
- 日中活動(通所先、作業内容など)に関する情報
- 地域での過ごし方、利用場所(公園、お店など)
- 親しい友人や支援者(ボランティア、ヘルパーなど)の氏名、連絡先、関係性
7. 権利擁護・法的情報
- 成年後見制度の検討状況(申立ての予定、候補者など)
- 任意後見契約を結んでいるか(契約内容、受任者、保管場所)
- 家族信託契約を結んでいるか(契約内容、受託者、保管場所)
- 遺言書を作成しているか(内容、保管場所、遺言執行者など)
8. 親族・関係者情報
- 親以外のキーパーソンとして考えている親族(きょうだいなど)の氏名、連絡先、関係性
- お子様のことをよく知っている親族や友人、近所の方の連絡先
- 弁護士、司法書士、税理士など、相談したことがある専門家の連絡先
9. 緊急連絡先・対応に関する情報
- 親御様以外の緊急連絡先リスト(複数)
- 災害時の避難場所、避難経路
- 災害用伝言ダイヤルなどの利用方法
- 防災グッズの場所、備蓄品のリスト
- お子様がパニックになった際の落ち着かせ方など
集めた情報を「整理・管理」する方法
集めた情報を、必要な時に誰でも(お子様本人、親族、支援者、将来の成年後見人など)アクセスでき、分かりやすい形で保管しておくことが重要です。いくつかの方法があります。
1. ノートやファイルにまとめる
いわゆる「引き継ぎノート」や「エンディングノート(お子様向け)」のような形で、一冊のノートやバインダーファイルにまとめておく方法です。
- メリット: デジタル機器が苦手な人でも扱いやすい、停電時でも見られる、手書きで温かみを込められる。
- デメリット: かさばる、紛失のリスク、更新が面倒になる可能性がある。
- ポイント: カテゴリ別にインデックスをつけたり、付箋を活用したりして、情報を探しやすく工夫しましょう。コピーを取っておくことも検討してください。
2. デジタルデータで管理する
パソコンやスマートフォン、クラウドストレージなどを活用して、デジタルファイルとして情報を保管する方法です。
- メリット: 情報の更新や複製が容易、検索しやすい、かさばらない、遠隔地にいる家族とも共有しやすい。
- デメリット: パソコン操作が必要、パスワード管理が重要、データの破損・紛失リスク(バックアップ必須)、停電時はアクセスできない場合がある。
- ポイント: 誰が見ても分かるようにフォルダ分けやファイル名を工夫しましょう。パスワードは安全な方法で管理し、信頼できる親族や支援者と共有方法を検討してください。
3. 情報管理サービスの活用
最近では、障害のある方のための情報管理に特化したアプリやサービスも登場しています。
- メリット: 必要な項目があらかじめ用意されている、複数人での情報共有機能がある場合が多い。
- デメリット: サービス利用料がかかる場合がある、サービスの提供終了リスク。
- ポイント: 信頼できるサービスか、セキュリティ対策は万全かなどを確認して選びましょう。
どの方法を選ぶにしても、重要なのは「誰が見ても必要な情報にたどり着けること」「情報が常に最新であること」です。定期的に内容を見直し、更新することを忘れないようにしましょう。
整理した情報を「誰と共有しておくべきか」
情報を集めて整理するだけでは不十分です。その情報を必要とする可能性のある人たちと、適切に共有しておくことが重要です。
- 親以外のキーパーソン(きょうだいなど): 親亡き後、お子様の中心的な支援者となる可能性のある親族には、情報の保管場所やアクセス方法を伝え、一緒に内容を確認する機会を持つことが望ましいです。
- 相談支援専門員: お子様のことをよく理解している相談支援専門員にも、情報が整理されていること、保管場所などを伝えておくと、親亡き後のスムーズな支援につながります。
- 将来の成年後見人等: 成年後見制度の利用を検討している場合、後見人候補者や選任された後見人には、これらの情報が引き継がれることになります。事前に情報の内容や保管場所を伝えておくと、就任後の活動が円滑になります。
- その他関係者: 必要に応じて、サービス事業所の責任者や主治医など、お子様の支援に関わる他の関係者にも、情報の整理状況について伝えておくと良いでしょう。
情報を共有する際は、プライバシーに配慮し、情報の開示範囲や共有方法について、関係者とよく話し合って決めることが大切です。お子様本人が可能な範囲で意思決定に関われるよう、配慮しましょう。
この作業を進める上での留意点
- 完璧を目指しすぎない: 一度に全ての情報を集めようとすると負担が大きくなります。まずは基本的な情報から始めて、徐々に項目を増やしていくような気持ちで取り組みましょう。
- 一人で抱え込まない: 情報収集や整理は、親御様にとって精神的・肉体的な負担になることがあります。配偶者や他の家族、相談支援専門員など、信頼できる人に相談しながら進めましょう。
- 専門家への相談: 特に財産管理や権利擁護に関する情報は専門的な知識が必要となる場合があります。必要に応じて、弁護士、司法書士、税理士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することを検討しましょう。
- お子様本人の意思を尊重: お子様本人が理解できる範囲で、将来の生活や情報の取り扱いについて意思を確認し、その意思を尊重することが大切です。情報リストの中にも、お子様の思いや希望を書き加える項目を含めると良いでしょう。
相談先や次のアクションへのヒント
どこから始めれば良いか迷う場合は、まずはお子様の担当の相談支援事業所に相談してみることをお勧めします。相談支援専門員は、日頃からお子様の生活状況や利用しているサービスを把握しており、どのような情報が必要か、どのように整理すれば良いかについて具体的なアドバイスをくれるでしょう。
また、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口でも、一般的な制度や情報収集に関する相談に乗ってくれる場合があります。
親亡き後の財産管理や権利擁護に不安がある場合は、弁護士会や司法書士会が実施している法律相談や、日常生活自立支援事業(社会福祉協議会が実施)についても情報収集を始めてみると良いでしょう。
まずは、このリストを参考に、集めやすい情報から少しずつ整理を始めてみてください。そして、誰に相談するのが良いか、誰に情報を共有すべきかを考えてみましょう。
まとめ
障害のある成人したお子様の親亡き後のために、親が元気なうちから情報を集め、整理しておくことは、お子様が安心して将来を過ごすための重要な準備です。医療、福祉、経済、生活、権利擁護など、多岐にわたる情報をリストアップし、ノートやデジタルデータなど、ご自身に合った方法で分かりやすく管理しましょう。
整理した情報は、お子様の支援に関わる親族や専門家と適切に共有することが大切です。一人で全てを抱え込まず、相談支援専門員などの専門家のサポートも活用しながら、できることから一歩ずつ取り組んでいきましょう。この作業を通じて、親御様自身の将来への不安も軽減され、お子様のより良い将来に向けた具体的な道筋が見えてくるはずです。