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障害のある子の成年後見人 親が知っておくべき後見人の選び方と大切な願いを託す方法

Tags: 成年後見制度, 成年後見人, 後見人の選び方, 親の意向, 親亡き後

親亡き後、障害のあるお子さんの生活をどのように守り、支えていくか、多くの親御さんが不安を感じていらっしゃることと思います。特に、財産管理や日々の契約、手続きなどを本人だけで行うことが難しい場合、成年後見制度の利用を検討されるケースは少なくありません。

成年後見制度を利用する上で、誰が成年後見人となるのか、そして、親御さんがお子さんに対して抱いている「こんな生活を送ってほしい」「これだけは大切にしてほしい」といった願いや意向を、将来の後見人にどのように託すことができるのかは、非常に重要な関心事です。

この記事では、成年後見制度における後見人の役割とともに、どのような人が後見人となりうるのか、そして、親御さんの大切なお子さんへの想いを後見人に伝えるための具体的な方法について解説します。

成年後見制度の基本と後見人の役割

成年後見制度は、判断能力が十分でない方々を法律的に保護し、支援するための制度です。大きく分けて、判断能力が衰えてから家庭裁判所によって選ばれる「法定後見制度」と、将来判断能力が衰えた場合に備えてあらかじめ自分で後見人(任意後見受任者)を選んでおく「任意後見制度」があります。

親亡き後のために成年後見制度を検討する場合、本人の判断能力の状態によっては法定後見制度を利用することが一般的です。法定後見制度では、家庭裁判所が本人の状況に応じて成年後見人、保佐人、補助人を選任します。

成年後見人の役割は、主に以下の二つです。

後見人は、本人の最善の利益を考慮し、本人の意思を尊重しながらこれらの職務を行います。

成年後見人にはどのような人が選ばれるのか

法定後見制度において、成年後見人は家庭裁判所が本人のために最もふさわしいと考えられる人物を選任します。必ずしも申立てを行った人や、申立て時に候補者として推薦された人が選ばれるとは限りません。

後見人となるのは、主に以下のような人たちです。

家庭裁判所は、本人の状況、財産の内容、親族関係、候補者の適性などを総合的に判断して後見人を選任します。

親が成年後見人に「大切な願い」を託す方法

家庭裁判所が後見人を選任するとはいえ、親御さんとしては、お子さんの将来を託す後見人について、また、どのような生活を送ってほしいかといった願いについて、最大限その意向を反映させたいと考えるのは自然なことです。親の意向を将来の後見人に伝える、あるいは家庭裁判所に考慮してもらうための方法はいくつかあります。

1. 申立て時の候補者推薦と理由の説明

成年後見制度の申立てを行う際、申立書の中で後見人の候補者を推薦することができます。親族や、親御さん自身が信頼できる専門職、あるいは法人などを候補者として挙げることが可能です。

単に候補者の名前を挙げるだけでなく、なぜその人を候補者として推薦するのか、その理由を具体的に、家庭裁判所に分かりやすく説明することが重要です。例えば、「長年本人の生活を支えてきて、本人の性格や生活習慣をよく理解している親族である」「専門的な知識を持ち、複雑な財産管理や関係機関との調整を適切に行えると考える専門職である」「本人が利用している福祉サービスとの連携が期待できる法人である」といった理由を付記します。

ただし、繰り返しになりますが、候補者を推薦しても、最終的に誰が選任されるかは家庭裁判所が判断します。候補者の適性が不十分と判断された場合や、親族間に意見の対立がある場合などには、専門職後見人が選任されるケースが多くあります。

2. 遺言書における付言事項

遺言書は財産の承継に関する法的な文書ですが、付言事項として、相続に関わらない内容、例えば親の想いやお子さんへのメッセージ、そして将来のお子さんの生活や成年後見人に関する希望などを書き記すことができます。

遺言書に「私の死後、〇〇(お子さんの名前)の後見が必要になった場合、できれば△△さん(または△△のような人物)に後見人になってほしい」「後見人になった方へのお願いとして、〇〇が慣れ親しんだこの家で、今まで利用してきたサービスを継続しながら安心して暮らせるよう配慮してほしい」「年に一度は故郷の祭りに行かせてあげてほしい」といったお子さんの生活に関する具体的な願いや、後見人に期待することなどを記載しておくことで、家庭裁判所や将来選任された後見人に親の意向を伝えることができます。

これは法的な拘束力を持つものではありませんが、家庭裁判所が後見人を選任する際の参考の一つとなり得ますし、選任された後見人が職務を行う上で、親の想いを汲み取る助けとなります。

3. 付言事項代用制度の活用

令和4年(2022年)の家事事件手続法の改正により、遺言書の付言事項に代わる方法として、親(特定関係者)が家庭裁判所に対し、後見等監督人に本人の財産管理等に関する意向を伝えることができる制度が創設されました。これは、後見監督人が選任されているケースで利用できる制度です。

この制度を利用することで、親御さんは、例えば「本人の生活費は毎月〇円を上限として使ってほしい」「この不動産は売却せず、本人に住み続けさせてほしい」といった具体的な財産管理や身上監護に関する希望を、家庭裁判所を介して後見監督人に伝えることが可能になります。後見監督人はその意向を後見人に伝え、後見人はその意向を尊重して職務を行うことが期待されます。

この制度は、後見監督人が選任されていることが前提となります。専門職後見人が選任された場合などには、後見監督人が同時に選任されることがよくあります。

4. 日頃からの関係者との連携と記録

成年後見制度は、親亡き後すぐに始まるわけではなく、申立てから開始までに時間を要する場合もあります。また、後見人が選任された後も、親だけで全てを完結させるのではなく、お子さんに関わる様々な人との連携が重要になります。

日頃から、お子さんの生活を支える相談支援専門員、利用している事業所の職員、きょうだいなどの親族と密に連携を取り、お子さんの健康状態、日々の過ごし方、好きなこと・嫌いなこと、大切にしていることなどを共有しておくことは、将来後見人がお子さんのことを理解し、適切な支援を行う上で非常に有効です。

また、これらの情報をエンディングノートや、お子さんのプロフィールとしてまとめ、財産目録とともに整理しておくと、万が一の場合にも残された関係者が対応しやすくなります。親の願いや、なぜそうした生活を送ってほしいのかといった理由を具体的に記しておくことが、後見人が本人の意思を尊重した支援を行うための大切なヒントとなります。

後見人への過度な期待と限界の理解

成年後見人は、本人の財産管理と身上監護を行う上で、法律に基づいた職務を忠実に行う義務があります。しかし、後見人は親代わりとなって本人の身の回りの世話をしたり、常に一緒にいたりするわけではありません。

親御さんとしては、「自分がいなくなった後、後見人に全てを任せれば安心だ」と考えがちですが、後見人の役割には限界があることも理解しておく必要があります。例えば、後見人は本人の医療行為に同意することはできませんし、施設入所の契約は行えても、施設での具体的な介護は施設の職員が行います。

後見人はあくまで本人の権利を擁護し、財産を管理し、生活を支えるために必要な契約や手続きを行う専門家(またはそれに準ずる者)です。親御さんが抱く「親代わり」としての側面や、きめ細やかな愛情を注ぐといった役割を後見人に全て期待することは難しい場合があることを認識しておくことが、制度を現実的に捉える上で重要です。

親が元気なうちからできる準備

お子さんの将来のために、そして親御さんの大切な願いを託すために、成年後見制度の検討と並行して、親が元気なうちからできる準備は多岐にわたります。

どこに相談すれば良いか

成年後見制度についてさらに詳しく知りたい場合や、具体的な準備を進めたい場合は、以下の相談先があります。

これらの専門機関や相談先を積極的に活用し、必要な情報を得ながら、お子さんの将来のための計画を着実に進めていくことが大切です。

まとめ

障害のあるお子さんの親御さんにとって、親亡き後にお子さんが安心して暮らせるかどうかは最大の関心事の一つです。成年後見制度はその重要な選択肢となりますが、誰に後見人を託すか、そして親の願いをどのように反映させるかといった点に不安を感じることもあるでしょう。

成年後見人の選任は家庭裁判所が行いますが、申立て時の候補者推薦とその理由の説明、遺言書の付言事項、そして新たな付言事項代用制度の活用などを通して、親の意向を家庭裁判所や将来の後見人に伝える努力は十分に可能です。

何よりも大切なのは、親が元気なうちからお子さんの将来について考え始め、関係者との連携を密にし、財産状況や生活習慣に関する情報を整理しておくといった具体的な準備を進めることです。これらの準備が、お子さんの将来の安心につながり、後見人がより適切に職務を行うための土台となります。

不安を一人で抱え込まず、専門機関や相談支援事業所など、様々なサポートを活用しながら、着実に準備を進めていきましょう。