親の介護と障害のある成人した子のケア 両立の課題と将来に備える支援
はじめに:親自身の健康や介護、将来の不安と子のケア
長年にわたり、障害のあるお子さんのケアを中心に生活されてきた皆様にとって、ご自身の年齢を重ねること、そしてご自身の健康や将来の介護への不安は、避けては通れない現実的な課題かもしれません。親御さん自身の体力の低下や、他のご家族(配偶者や、ご自身のきょうだいなど)のケアが必要になった場合、これまでのように成人したお子さんのケアを続けることができるのか、あるいはご自身が体調を崩したり入院したりした場合、お子さんの生活はどうなるのか、といった漠然とした、あるいは具体的な不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような状況は、決して一人で抱え込むべき問題ではありません。社会には、親御さんの状況変化と並行して、障害のあるお子さんが安心して生活を続けていくための様々な制度や支援があります。
この記事では、親御さんの高齢化や健康状態の変化が障害のあるお子さんのケアに与える影響を考えながら、利用できる支援制度やサービス、そして将来に備えるために今からできることについて解説します。
親の高齢化・健康問題がもたらす障害のある子のケアへの影響
親御さんの年齢が上がり、あるいは健康上の課題が出てくると、障害のある成人したお子さんのケアにおいて、いくつかの点で影響が出てくる可能性があります。
体力的な限界とケア内容の見直し
身体的な介助が必要な場合、親御さんの体力だけでは難しくなる場面が出てきます。例えば、入浴や移動の介助、夜間の見守りなどがこれまで通りの方法では難しくなるかもしれません。
親自身の医療的・介護的ニーズの発生
親御さん自身が病院にかかる頻度が増えたり、通院・入院が必要になったり、あるいは介護保険サービスを利用する必要が出てくることも考えられます。その場合、お子さんのケアにかけられる時間や労力が物理的に減少し、両立が難しくなります。
精神的な負担の増加
ご自身の体調への不安に加え、お子さんの将来に対する不安が増すことで、精神的な負担が大きくなることがあります。また、お子さんのケアに加え、ご自身の医療や介護に関する手続きなども増え、心理的に疲弊してしまうこともあります。
きょうだいなど他の家族への影響
親御さんが十分にケアを担えなくなった場合、お子さんのきょうだいや他の親族がその役割を担うことを期待されるケースがあります。しかし、きょうだいも自身の生活や家族があり、十分なサポートが難しい場合もあります。事前に話し合いができていない場合、関係性の悪化につながる可能性もゼロではありません。
将来に備えるための考え方:一人で抱え込まず、連携する
親御さん自身の健康や介護と、障害のあるお子さんのケアの両立という課題に立ち向かうためには、「一人で抱え込まないこと」が最も重要です。お子さんのケアは、親御さんだけの責任ではありません。社会の様々な資源や、他の家族と連携していく視点が不可欠です。
- 課題の明確化: どのような点に不安を感じるのか、どのような状況になったらケアが難しくなるのかを具体的に整理してみましょう。
- 家族との話し合い: 配偶者やお子さんのきょうだいなど、他の家族とも率直に話し合い、将来のケアについて一緒に考えてもらう機会を持ちましょう。
- 専門家への相談: 地域の相談窓口や専門家(相談支援専門員、ケアマネジャー、社会福祉士など)に早めに相談し、利用できる制度やサービスに関する情報を得るようにしましょう。
親の状況変化に備えて利用できる主な支援制度・サービス
親御さんの健康状態や介護の必要性が出てきた場合に、障害のあるお子さんのケアを継続するために活用できる主な支援制度やサービスについて説明します。
1. 障害福祉サービスの見直し・活用
現在利用している障害福祉サービスを、親御さんの状況変化に合わせて見直すことができます。
- 居宅介護(ホームヘルプ)の利用時間の増加: 親御さんが身体的に介助が難しくなった部分を、ホームヘルパーに依頼することを検討します。必要な時間数やサービス内容(身体介護、生活援助など)を増やせないか、サービス等利用計画作成を依頼している相談支援事業所に相談しましょう。
- 短期入所(ショートステイ)の積極的な活用: 親御さんが体調を崩したり、入院・通院が必要になったり、あるいはレスパイトケア(休息)が必要になった際に、お子さんが短期入所を利用できるように、事前に登録や利用予約をしておくことが重要です。
- 日中活動サービス(生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援など)の利用: 日中の時間帯にお子さんが事業所で過ごすことで、親御さんはその時間に自身の通院や休息、家事などを行うことができます。現在利用していない場合は、利用開始を検討できます。利用中の場合も、サービス内容や利用頻度を見直すことで、親御さんの負担軽減につながる可能性があります。
- 行動援護、同行援護、重度訪問介護などの活用: お子さんの障害特性や必要な支援内容に応じて、これらのサービスを利用することで、親御さんが外出できない場合でもお子さんが社会参加したり、重度な肢体不自由や知的障害、精神障害により行動上著しい困難があるお子さんのケアを専門的なスキルを持つヘルパーに依頼したりすることが可能になります。
2. 相談支援事業所との連携強化
障害福祉サービス等利用計画を作成している相談支援事業所は、親御さんの状況変化を踏まえた計画の見直しや、新たなサービスの情報提供を行う重要な役割を担います。
- 親御さんの健康状態や将来の不安について、率直に相談しましょう。
- 親御さんが体調を崩した場合など、緊急時の対応についても事前に相談し、計画に盛り込んでもらうことを検討しましょう。
- お子さんのきょうだいなど、他の家族との連携についても相談できます。
3. 成年後見制度などの活用
親御さんが将来、判断能力が低下した場合に備えて、お子さんの権利擁護や財産管理をどのように行うかを考えておくことが重要です。
- 成年後見制度: 親御さんの判断能力が低下した場合に、家庭裁判所に申し立てて成年後見人等を選任してもらう制度です。お子さんの財産管理や、様々な契約行為などを代行・同意することができます。
- 任意後見制度: 親御さんが元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、ご自身で選んだ任意後見人との間で後見事務の内容を契約しておく制度です。
これらの制度は、親御さん自身が判断能力を失う前からの準備や検討が必要です。お子さんの将来の安心のために、専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士など)に相談してみることをお勧めします。
4. 親自身の介護保険サービスの利用
親御さん自身が65歳以上(あるいは40歳以上で特定疾病に該当する場合)で介護が必要になった場合、介護保険サービスを利用することができます。親御さんがデイサービスやショートステイなどを利用することで、お子さんのケアから離れる時間を作り、休息や自身の通院などをすることが可能になります。これは、お子さんのケアを継続するための親御さん自身の健康を維持する上で非常に重要です。
5. 家族支援・きょうだいとの連携
お子さんのきょうだいがいる場合、将来のサポートについて早めに話し合い、役割分担や期待されることを明確にしておくことが、きょうだいの負担軽減や家族関係の維持に繋がります。相談支援専門員なども交えて、客観的な視点から話し合いを進めることも有効です。
具体的な準備のステップと相談先
親御さんの高齢化や健康問題に備えるために、今からできる具体的なステップと、相談先をご紹介します。
ステップ1:家族で話し合う機会を持つ
親御さん、お子さん(可能な場合)、きょうだいなど、関係する家族で集まり、現状の課題や将来の不安について率直に話し合います。誰がどのような点で心配しているのか、お子さんはどのような生活を送りたいと思っているのか、きょうだいはどの程度サポートできるのか、といったことを共有します。
ステップ2:相談支援事業所に相談する
日頃から関わりのある相談支援事業所に、家族会議で出た内容や親御さんの健康状態、将来への不安について相談します。相談支援専門員は、親御さんの状況変化を踏まえたサービス等利用計画の見直しや、利用できる社会資源に関する情報提供、他の機関との連携など、多角的な支援を提案してくれます。
ステップ3:利用可能なサービスや制度を検討・申請する
相談支援事業所からの提案や、ご自身で情報収集した内容をもとに、実際に利用を検討するサービスや制度を具体的に選びます。必要に応じて、見学に行ったり、申請書類を準備したりします。
ステップ4:緊急時の対応計画を立てる
親御さんが急に入院したり、体調が急変したりした場合に備え、誰に連絡するか、どこに一時的に滞在するか(ショートステイ先など)、必要な手続きは何かなどを事前に決めておき、関係者(家族、相談支援事業所、短期入所先など)に共有しておきます。
ステップ5:経済的な備えについて検討する
親御さんの医療費や介護費用、そして親亡き後のお子さんの生活費について、改めて長期的な視点で検討します。利用できる年金制度(お子さんの障害年金、親御さんの年金)、預貯金、保険など、利用できる経済的な資源を確認し、必要であれば専門家(ファイナンシャルプランナーなど)に相談することも検討しましょう。
主な相談先
- 市区町村の障害福祉担当窓口: 障害福祉サービス全般に関する情報提供や申請受付を行います。
- 相談支援事業所: サービス等利用計画の作成・見直し、他の機関との連携調整など、継続的な相談支援を行います。
- 地域包括支援センター: 親御さんご自身の介護予防や、介護保険サービスに関する相談ができます(主に65歳以上の方が対象)。
- 社会福祉協議会: 日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助)など、様々な福祉サービスに関する相談ができます。
- 成年後見制度に関する相談窓口: 各地の家庭裁判所、弁護士会、司法書士会、社会福祉協議会などが相談に応じています。
まとめ:将来への不安を安心に変えるために
親御さん自身の高齢化や健康問題は、障害のある成人したお子さんの将来を考える上で避けて通れない課題です。しかし、この課題に正面から向き合い、利用できる社会的な支援やサービスを積極的に活用し、家族や専門家と連携することで、お子さんが将来にわたって安心して生活できる基盤を築くことは可能です。
一人で悩まず、まずは身近な相談窓口に連絡してみましょう。専門家とともに、ご家族にとって最善の道を見つけていくプロセスが、将来への漠然とした不安を具体的な安心に変える第一歩となるはずです。
バリア解放ナビでは、今後も皆様の不安解消に役立つ正確で実践的な情報提供に努めてまいります。