障害のある成人した子の将来にかかる費用をどう見積もる? 親が元気なうちに考える費用と準備方法
はじめに:お子様の将来の費用、漠然とした不安はありませんか?
成人された障害のあるお子様を持つご家族にとって、「親亡き後」の生活は大きな関心事の一つかと思います。特に、経済的な側面に不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。「将来、生活にはどれくらいの費用がかかるのだろうか?」「その費用をどうやって準備すれば良いのだろうか?」といった疑問は尽きないかもしれません。
将来にかかる費用を具体的に見積もり、必要な準備を進めることは、お子様が親亡き後も安心して生活を送るための重要なステップです。本記事では、障害のある成人したお子様の将来にかかる可能性のある費用の種類、費用の見積もりの考え方、そして親が元気なうちにできる準備について解説します。
なぜ将来の費用を見積もることが大切なのか
お子様の将来にかかる費用を具体的に把握することは、単に金額を知るだけではありません。そこには、以下のような大切な意味があります。
- 現実的な将来設計が可能になる: 漠然とした不安を具体的な数字に変えることで、現実に基づいたライフプランを立てることができます。
- 必要な準備が明確になる: 不足が見込まれる費用に対して、どのような方法で準備を進めるべきか(貯蓄、資産運用、保険、公的制度の活用など)が明らかになります。
- 関係者との共有が容易になる: ご家族間や、相談支援専門員、成年後見人候補者といった将来のキーパーソンと情報を共有し、共通理解を持って支援体制を構築する上で役立ちます。
- 安心感につながる: 不安の要因を具体的に捉え、それに対する対策を講じることで、親御さん自身の安心感にもつながります。
将来かかる可能性のある費用の種類
障害のある成人したお子様の将来にかかる費用は、個別の状況(障害支援区分、利用サービス、住居形態など)によって大きく異なりますが、一般的に以下のような費用が考えられます。
1. 住居に関する費用
どのような住居形態を選択するかによって費用は大きく変わります。
- グループホームや障害者支援施設の利用料: 家賃、食費、光熱水費、日用品費などが含まれます。所得に応じて減免制度がある場合もありますが、毎月一定の費用が発生します。
- 自宅での生活: 家の維持費(修繕費、固定資産税)、光熱水費、通信費など。親亡き後に所有者が変わる場合の相続税なども考慮が必要かもしれません。
- 賃貸住宅: 家賃、敷金・礼金(初期費用)、共益費など。
2. ケア・生活支援に関する費用
日常生活を送る上で必要となる様々なサービス利用にかかる費用です。
- 障害福祉サービス利用者負担金: 居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、行動援護、生活介護、短期入所(ショートステイ)などのサービスを利用した場合に発生する自己負担分です。所得に応じた負担上限月額が定められています(所得が低い場合は自己負担がない場合もあります)。
- 日中活動サービス利用料: 生活介護、就労移行支援、就労継続支援などの事業所を利用する際の費用(食費や送迎費など)です。
- その他の費用: 医療ケアが必要な場合の費用、介護用品費、日常生活で必要となる介助費用など。
3. 医療に関する費用
健康を維持するために必要となる医療費です。
- 医療費の自己負担分: 通院、入院、手術などにかかる費用です。障害者医療費助成制度や高額療養費制度などにより負担が軽減される場合があります。
- 薬代: 処方された薬にかかる費用です。
- 健康診断、予防接種などの費用:
4. 日常生活費
一般的な生活を送る上で必要となる費用です。
- 食費: 自炊、配食サービス、外食など。
- 被服費: 衣類や靴などにかかる費用。
- 日用品費: 洗剤、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなど。
- 通信費: 携帯電話、インターネットなど。
- 交通費: 公共交通機関の利用、タクシー代など。
- 小遣い・娯楽費: 個人の趣味や外出にかかる費用。
- 保険料: 生命保険、医療保険、損害保険など。
5. 権利擁護に関する費用
成年後見制度などを利用する場合にかかる費用です。
- 成年後見人等への報酬: 家庭裁判所が決定する額を支払う必要があります。管理する財産額や業務内容によって異なります。
- 申立てにかかる費用: 登記費用、切手代、診断書代など。
将来の費用の見積もり方と考えるポイント
将来にかかる費用を具体的に見積もる際には、以下のステップで考えると良いでしょう。
- 現在の状況把握: 現在の生活スタイル、利用しているサービス、毎月の支出、お子様の収入(障害年金、作業所工賃など)を正確に把握します。
- 将来の住居形態を想定: 親亡き後にどのような住居形態(自宅継続、グループホーム、施設入所など)になる可能性が高いかを想定します。
- 利用する可能性のあるサービスを検討: 将来必要になるであろう障害福祉サービスや医療ケアなどを想定します。
- 費用の項目ごとに概算: 上記1〜3を踏まえ、前述の費用の種類ごとに、おおよその金額を算出します。
- 障害福祉サービスの利用者負担については、現在の負担上限月額を参考にします。ただし、将来の所得状況や制度改定により変動する可能性があることを考慮します。
- グループホームや施設利用料については、検討している施設の情報を収集します。
- 日常生活費は、現在の支出を参考に、将来の生活スタイルに合わせて調整します。
- 成年後見人への報酬は、財産額に応じて変動するため、専門家(弁護士や司法書士)に相談して目安を聞いてみることも有効です。
- 収入の見込みを立てる: 障害年金の種類(基礎年金、厚生年金)や等級、その他の手当、作業所からの収入などを考慮し、将来の収入を予測します。
- 収支のバランスを確認: 概算した費用総額と収入見込みを比較し、不足が見込まれる額を把握します。
この見積もりはあくまで現時点での予測であり、将来の状況変化(制度改正、物価変動、お子様の心身の状態の変化など)によって変動する可能性があることを理解しておくことが重要です。定期的に見直しを行うことをお勧めします。
親が元気なうちにできる費用の準備方法
将来かかる費用を見積もった結果、不足が見込まれる場合は、親が元気なうちから計画的に準備を進めることが大切です。
- 貯蓄・資産形成: 将来必要となる資金を計画的に貯蓄したり、リスクを考慮した上で資産運用を検討したりします。
- 保険の活用: 親に万が一のことがあった場合に、お子様の生活資金を確保するための生命保険や、医療費負担に備える医療保険などを検討します。
- 成年後見制度の活用: 親が判断能力を失った後、お子様の財産管理を成年後見人に託すことで、計画的な資金管理が可能になります。親が元気なうちに任意後見契約を結ぶことも選択肢の一つです。
- 家族信託・遺言書の作成: 親が亡くなった後、遺産をお子様の将来の生活のためにどのように使うかを具体的に定めることができます。家族信託は、財産管理を託す人とその目的を細かく設定できる点が特徴です。遺言書と合わせて検討することで、より安心できる財産管理の仕組みを構築できます。
- 公的制度の活用: 障害年金、特別障害者手当、障害福祉サービスの利用者負担軽減制度(高額障害福祉サービス等給付費など)など、お子様が利用できる公的な支援制度を最大限に活用できるよう、情報収集し、手続きを進めておくことが重要です。
これらの準備は、一つだけでなく複数の方法を組み合わせることも可能です。
費用見積もり・準備に関する相談先
将来の費用に関する計画は複雑で、専門的な知識が必要となる場合もあります。一人で抱え込まず、専門家や関係機関に相談しながら進めることをお勧めします。
- 相談支援事業所: 障害福祉サービスの利用計画作成だけでなく、将来の生活全般に関する相談にも応じてくれます。地域の資源や制度に詳しいため、具体的な費用の目安や利用できるサービスについて相談できます。
- 市区町村の障害福祉窓口: 地域の障害福祉制度に関する情報を提供しています。
- ファイナンシャルプランナー(FP): ライフプラン全体の視点から、将来の収支予測や資産形成、保険活用などについて専門的なアドバイスを得られます。障害のあるご家族の支援に詳しいFPに相談すると良いでしょう。
- 弁護士・司法書士: 成年後見制度、家族信託、遺言書作成といった法的な手続きや財産管理に関する相談ができます。
- 信託銀行など: 障害のある方のための財産管理を目的とした専用の信託商品(「障害者扶養信託」など)を提供している場合があります。
これらの専門家や機関に相談する際には、お子様の現在の状況や将来の希望、親御さんの考えなどを具体的に伝えると、より的確なアドバイスを得られます。
まとめ
障害のある成人したお子様の将来にかかる費用について考えることは、時に心理的な負担を伴うかもしれません。しかし、費用を具体的に見積もり、計画的に準備を進めることは、お子様が将来にわたって安定し、安心して生活を送るための礎となります。
このプロセスは一度行えば終わりではなく、定期的にお子様の状況や社会情勢の変化に合わせて見直しを行うことが大切です。焦る必要はありません。まずは第一歩として、現在の状況を整理し、将来の可能性をいくつか考えてみることから始めてみましょう。そして、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、少しずつでも計画を進めていくことが、将来の安心につながります。
親御さんが元気なうちに、お子様の将来のためにできる準備を進めておくことは、お子様への何よりの贈り物となるでしょう。