障害のある成人した子の将来のために親ができること:住居、ケア、財産管理の計画と準備
はじめに:成人した障害のあるお子様の将来への不安、どのように向き合いますか
大切なお子様が成人され、親御様としてはこれまで以上に将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。「もし自分に何かあったら、この子はどこでどのように暮らしていくのだろうか」「生活に必要な費用はどうなるのか」といった悩みは尽きないことと思います。
特に、障害のあるお子様の場合、将来の生活には様々な側面からの準備が必要となります。しかし、何から始めれば良いのか、どのような制度があるのか、といった情報が不足していると感じる方も少なくないでしょう。
この記事では、障害のある成人したお子様を持つ親御様に向けて、親御様が元気なうちにできる将来の計画と準備について、住居、ケア、財産管理という3つの柱を中心に解説します。
親が元気なうちに進める「将来計画」の重要性
お子様にとって、住み慣れた環境や慣れ親しんだ支援関係は何よりも大切です。将来の環境の変化を最小限に抑え、お子様が安心して暮らしていけるようにするためには、親御様が主体となって早めに将来の計画を立て、準備を進めることが非常に重要です。
計画を立てることで、お子様自身の意思や希望を反映させやすくなり、必要な支援や制度を事前に調べ、手配しておくことができます。また、関係機関との連携を構築し、親御様がいなくなった後もスムーズに支援が継続される体制を整えることにも繋がります。
この将来計画で特に考えておくべきは、以下の3つの柱です。
- 将来の住まい(住居):どこで、どのような形態で暮らしていくのか
- 必要なケアと生活支援:日々の生活でどのような支援が必要で、どう受けるのか
- 将来の財産管理と権利擁護:生活費や財産の管理、法的な手続きを誰が行うのか
これらの柱について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
柱1:将来の「住まい」を考える
お子様が親御様と離れて暮らすことになった場合、どのような場所で生活するのかは非常に大切な選択です。選択肢としては、主に以下のようなものが考えられます。
- グループホーム(共同生活援助): 障害のある方が複数人で共同生活を営む住居です。世話人による食事の提供や相談、日常生活上の支援が受けられます。地域の中で暮らすことを希望する場合の一般的な選択肢の一つです。
- 施設入所支援: 主に夜間や休日において、入所施設で生活全般の介護や支援を受けることができるサービスです。重度の障害や医療的ケアが必要な場合などに選択肢となります。
- 自宅での生活継続(訪問系サービス利用): 親亡き後も、お子様が住み慣れた自宅で暮らし続けられるよう、居宅介護や重度訪問介護などの障害福祉サービスを利用しながら生活を維持する方法です。
- ケアホーム(かつてあった共同生活援助の形態): 現在はグループホームに一元化されていますが、一部に旧制度の形態を残す場合もあります。
どの住居形態が良いかは、お子様の障害の程度、必要な支援の内容、本人の希望、利用できるサービス、地域の状況など、様々な要因によって異なります。それぞれの特徴や、受けられる支援の内容、費用などについて情報収集し、お子様や関係者とよく話し合って検討することが重要です。
柱2:必要な「ケア」と「生活支援」を確保する
住まいだけでなく、日々の生活を送る上でのケアや支援も計画の中心となります。障害のある方が利用できる主な支援は、障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス」です。
障害福祉サービスは、大きく分けて「自立支援給付」と「地域生活支援事業」があります。住居の項目で触れたグループホームや施設入所支援もこのサービスのひとつです。
日中の活動については、生活介護や就労移行支援、就労継続支援などが既存の記事で解説されていますが、それ以外の日常生活を支えるサービスも多く存在します。
- 居宅介護(ホームヘルプ): 自宅での入浴、排せつ、食事などの身体介護や、調理、洗濯、掃除などの生活援助を受けるサービスです。
- 重度訪問介護: 重度の肢体不自由や知的障害、精神障害により常時介護が必要な方に、長時間の身体介護や生活援助、外出時の移動支援などを総合的に提供するサービスです。
- 行動援護: 知的障害や精神障害により行動上著しい困難がある方に、行動する際に生じうる危険を回避するための援護や外出支援を行うサービスです。
- 短期入所(ショートステイ): 自宅で介護を受けている方が、介護者の病気などで一時的に自宅での介護が難しくなった場合などに、施設に短期間入所して生活支援や介護を受けるサービスです。親御様が休息をとるため(レスパイトケア)にも利用されます。
これらのサービスを利用するためには、「サービス等利用計画」の作成が不可欠です。この計画作成の中心的な役割を担うのが、相談支援専門員です。相談支援専門員は、お子様の心身の状況や生活環境、希望などを踏まえ、どのようなサービスを組み合わせるのが最適かを一緒に考え、サービス等利用計画案を作成してくれます。この計画に基づき、市区町村が支給決定を行い、サービス利用が開始されます。
親御様が元気なうちに相談支援専門員と繋がりを持ち、お子様の状況を共有し、必要な支援について具体的に話し合っておくことが、将来にわたる切れ目のない支援体制を構築する上で非常に重要です。
柱3:将来の「財産管理」と「権利擁護」の準備
お子様が親御様から独立して生活していくためには、生活費や各種費用の支払いをどのように行っていくか、財産をどのように管理していくかといった「お金」の問題、そして、各種契約や手続き、法的な権利の行使などを誰が行うかという「権利擁護」の問題への対応が必要です。
お子様ご自身でこれらの手続きを行うことが難しい場合、何らかの支援や制度の利用が必要になります。
- 成年後見制度: 精神上の障害などにより判断能力が十分でない方について、家庭裁判所が選任した後見人などが、本人の利益を考慮しながら、財産管理や身上監護(生活、医療、介護に関する手続きなど)を行う制度です。法定後見制度と任意後見制度があります。
- 任意後見制度: 将来、判断能力が不十分になった場合に備え、ご本人が十分な判断能力があるうちに、ご自身で選んだ代理人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいこと(療養看護、財産管理など)をあらかじめ契約(任意後見契約)で決めておく制度です。
- 日常生活自立支援事業: 福祉サービスの利用援助や金銭管理の援助などを、社会福祉協議会との契約に基づいて利用できる制度です。成年後見制度を利用するほどではない、比較的軽度の判断能力の低下がある方が対象となることが多いです。
これらの制度については、既存の記事「障害のある方のための財産管理・金銭管理 親が元気なうちからできる準備と利用できる制度」や「親亡き後に備える 障害のある方のための成年後見制度の基本と手続き」でより詳しく解説していますので、そちらもご参照ください。
どの制度を選択するかは、お子様の判断能力の程度や必要な支援内容、将来の希望などを踏まえて慎重に検討する必要があります。弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家や、市区町村の窓口、地域包括支援センターなどに相談することをおすすめします。
将来計画を具体的に進めるためのステップ
将来の計画と準備は、一朝一夕にできるものではありません。以下のステップを参考に、お子様とご家族、そして関係機関と共に、時間をかけて進めていくことが大切です。
- ステップ1:情報収集と家族での話し合い まず、お子様の現在の状況や将来の希望、必要な支援について、ご家族で話し合うことから始めましょう。そして、この記事でご紹介した住居やケア、財産管理に関する様々な制度やサービスについて情報収集を行います。
- ステップ2:相談支援事業所など専門機関への相談 集めた情報だけでは判断が難しい場合や、具体的な選択肢について専門的なアドバイスを受けたい場合は、相談支援事業所や市区町村の障害福祉窓口に相談に行きましょう。お子様に合ったサービスや制度、利用方法について詳しく説明を受けられます。
- ステップ3:サービス等利用計画の作成と利用申請 将来の生活を見据えたサービス等利用計画の作成を、相談支援専門員に依頼します。計画が完成したら、市区町村にサービスの利用申請を行います。これにより、必要な障害福祉サービスを将来にわたって利用するための基盤ができます。
- ステップ4:定期的な見直し お子様の状況やご家族の状況、利用できる制度は時間とともに変化する可能性があります。作成した将来計画やサービス等利用計画は、一度作って終わりではなく、定期的に見直しを行い、必要に応じて修正していくことが重要です。
計画を進める上での大切な視点
将来計画を進めるにあたっては、以下の2つの視点を常に持つことが大切です。
- 本人の意思を尊重すること: 計画の中心はお子様自身です。可能な限り、お子様の希望や意見を聞き、意思を尊重した計画を立てることが、お子様が主体的に、安心して生きていくために最も重要です。
- 早めに準備を始めるメリット: 親御様が元気で判断能力も十分なうちに始めることで、様々な選択肢を検討する時間を持つことができ、関係機関との連携もスムーズに進めやすくなります。また、お子様自身も心の準備をする時間が持てます。
どこに相談すれば良いか:具体的な相談先
将来の計画や準備について、どこに相談すれば良いか分からないという方もいらっしゃるかもしれません。以下のような機関が相談に応じてくれます。
- 相談支援事業所: 障害福祉サービスの利用に関する専門的な相談、サービス等利用計画の作成を行ってくれます。まずはこちらに相談するのが良いでしょう。
- 市区町村の障害福祉窓口: 地域の障害福祉サービスや制度に関する総合的な情報提供、申請手続きの受付などを行っています。
- 地域包括支援センター: 高齢者に関する総合相談窓口ですが、知的障害や精神障害のある方が高齢になった場合の相談にも対応してくれる場合があります。
- 弁護士、司法書士: 成年後見制度や任意後見契約、遺言など、法的な手続きや財産管理に関する専門的な相談ができます。
- 社会福祉協議会: 日常生活自立支援事業に関する相談や手続きができます。
これらの相談先を状況に応じて活用しながら、一歩ずつ計画を進めていきましょう。
まとめ:安心できる将来へ向けて、今日からできること
障害のある成人したお子様の親御様にとって、親亡き後の将来への不安は大きなものかもしれません。しかし、その不安を軽減し、お子様が将来も安心して自分らしく暮らしていくためには、親御様が元気なうちから計画的に準備を進めることが何よりも大切です。
住居、ケア、財産管理という3つの柱を念頭に置き、お子様の意思を尊重しながら、情報収集、専門機関への相談、計画作成というステップを踏んでいきましょう。
未来を考え、行動を起こすことは、お子様にとっても、親御様自身にとっても、安心へと繋がる第一歩となります。一人で抱え込まず、様々な支援機関を活用しながら、一緒に将来への道を切り開いていきましょう。この記事が、その一助となれば幸いです。