障害のある成人した子の「親亡き後」の住まい:選択肢ごとの費用、手続き、検討ポイント
はじめに
大切なご家族である障害のあるお子さんが成人を迎えられた後、親御様が抱える不安の一つに「自分たちが高齢になったり、もしものことがあったりした際、この子はどこでどのように暮らすのだろうか」という住まいに関する将来への懸念があるかと思います。
障害のある方が安心して暮らせる住まいには、いくつかの選択肢があり、それぞれに特徴や利用にかかる費用、手続きが異なります。「何から考えれば良いのか分からない」「費用はどれくらいかかるのだろうか」「どこに相談したら良いのか」といった疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、障害のある成人したお子さんが「親亡き後」も地域で安心して暮らし続けるための住まいについて、主な選択肢とその特徴、利用にかかる費用、手続き、そしてご家族が検討すべきポイントを分かりやすく解説します。将来の安心のために、ぜひ情報収集の一助としていただければ幸いです。
親亡き後を見据えた住まい選びの重要性
親御様が元気なうちに、お子さんの将来の住まいについて検討を始めることは、いくつかの重要な意味を持っています。
- 選択肢の検討と準備時間の確保: 施設やグループホームへの入居を希望する場合、見学や体験利用、申し込み、行政手続きなど、時間を要するプロセスが多くあります。早い時期から検討することで、様々な選択肢を比較検討し、お子さんにとって最も適した場所を見つけるための十分な時間を確保できます。
- お子さんの意向の尊重: お子さんの意思や希望を尊重しながら住まいを選ぶためには、本人としっかりと話し合う時間が必要です。親御様が間に入り、本人の思いを聞き取り、選択肢について丁寧に説明する機会を設けることができます。
- 経済的な計画: どのような住まいを選択するかによって、かかる費用は大きく異なります。早めに費用を見積もり、準備を始めることで、経済的な不安を軽減し、持続可能な生活基盤を築くことができます。
- 安心できる体制づくり: 親亡き後にお子さんを支えるキーパーソン(成年後見人など)や、地域での見守り・支援体制についても、住まい選びと並行して検討・準備を進めることが重要です。
障害のある成人した子の住まいの主な選択肢
障害のある成人した方が暮らす住まいには、主に以下のような選択肢があります。
1. グループホーム(共同生活援助)
障害のある方が、数人のグループで共同生活を営む住居です。世話人や生活支援員による食事や入浴、生活に関する相談などの支援を受けながら、地域の中で自立した暮らしを目指します。
- 特徴: アットホームな雰囲気で、他の利用者との交流があります。日中は日中活動サービス(生活介護や就労支援など)を利用する方が多いです。
- メリット: 地域の中で暮らせる、比較的自由度が高い、他の利用者や支援員との関わりがある。
- デメリット: 集団生活であること、支援体制は施設入所に比べて手薄な場合がある。
2. 入所施設(施設入所支援)
障害のある方が、施設に入所して生活する場です。日中の介護や支援(生活介護や自立訓練など)と夜間の居住支援を一体的に受けることができます。
- 特徴: 比較的重度の障害がある方や、手厚い支援が必要な方が利用しやすいです。医療的なケアが必要な方に対応できる施設もあります。
- メリット: 24時間体制で手厚い支援や介護を受けられる、医療連携が可能な施設もある。
- デメリット: 地域から隔離されがち、集団生活の規則がある。
3. 地域での一人暮らし・ケア付き賃貸住宅など
障害特性や必要な支援内容によっては、重度訪問介護などの居宅介護サービスや、その他の地域生活支援事業を活用しながら、一人暮らしやケア付きの賃貸住宅で暮らすという選択肢もあります。
- 特徴: 本人の希望やライフスタイルに合わせた柔軟な暮らしが可能です。訪問型の支援が中心となります。
- メリット: 自由度が高い、慣れた地域で暮らし続けられる可能性がある。
- デメリット: 24時間体制の支援が必要な場合は調整が難しい場合がある、緊急時の対応体制を十分に構築する必要がある。
4. 親族との同居
親御様が健在なうちは最も一般的な形ですが、「親亡き後」を見据えた場合、兄弟姉妹など他の親族との同居も選択肢の一つとなり得ます。ただし、親族に過度な負担をかけることのないよう、十分な話し合いと公的な支援(居宅介護など)の活用が不可欠です。
各選択肢にかかる費用について
住まいにかかる費用は、主に以下の要素で構成されます。
- 障害福祉サービス費用: 障害支援区分や利用するサービス内容に応じた費用の1割(所得に応じた上限あり)
- 家賃/施設利用料: 住まい自体にかかる費用。グループホームや地域での暮らしの場合は家賃、入所施設の場合は施設利用料などが含まれます。
- 食費: 食事提供がある場合は実費相当額。
- 光熱水費: 電気、ガス、水道などの使用料。
- 日用品費: 個人の日用品にかかる費用。
これらのうち、障害福祉サービス費用については、所得に応じて負担上限額が設定されており、それを超える部分は公費で負担されます。また、同じ月に利用した障害福祉サービスとその他のサービス費用の合算額が高額になる場合は、高額障害福祉サービス等利用費として償還払いされる制度があります。
費用に関する一般的な目安(地域やサービス内容により大きく変動します)
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グループホーム:
- 家賃: 月額1万円~5万円程度(地域や物件による)
- 食費、光熱水費、日用品費など: 月額2万円~4万円程度
- サービス自己負担分: 所得に応じた上限額内(例: 所得割20万円未満の場合は月額9,300円)
- 合計: 月額4万円~10万円程度 + サービス自己負担分
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入所施設:
- 施設利用料(家賃、食費、光熱水費など含む場合が多い): 月額4万円~8万円程度
- サービス自己負担分: 所得に応じた上限額内
- 合計: 月額4万円~8万円程度 + サービス自己負担分
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地域での一人暮らし等:
- 家賃: 地域や物件による(月額数万円~)
- 食費、光熱水費、日用品費など: 自宅で暮らすのと同様にかかります。
- サービス自己負担分: 利用するサービス内容に応じた上限額内
- 合計: 住居費 + 生活費 + サービス自己負担分
親御様が検討されている地域にある具体的な事業所や施設の費用については、必ず問い合わせて確認することが重要です。また、障害年金や生活保護など、お子さんの収入や利用できる制度も費用計画に含めて考える必要があります。
各選択肢の利用手続きについて
障害福祉サービスを利用してグループホームや入所施設、地域での支援を受けるためには、まず市区町村の障害福祉課の窓口で相談し、手続きを進める必要があります。一般的な流れは以下の通りです。
- 相談: 市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に、住まいに関する悩みや希望を相談します。
- 申請: 障害福祉サービスの利用申請を行います。
- 障害支援区分の認定調査: 心身の状況に関する調査を受け、障害支援区分が認定されます。
- サービス等利用計画案の作成: 相談支援事業所が、本人の希望や状況に基づき、利用するサービスの種類や量を盛り込んだ「サービス等利用計画案」を作成します。
- 支給決定: 市区町村が、認定された障害支援区分やサービス等利用計画案に基づき、利用できるサービスの種類や量を決定し、「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。
- 事業所との契約: 受給者証に記載されたサービスを利用するため、希望するグループホームや入所施設、居宅介護事業所などと契約を結びます。
- 利用開始: 契約に基づき、サービスの利用を開始します。
グループホームや入所施設の場合、事前の見学や体験入所を経て、施設側との面談などがあることが一般的です。空き状況も変動するため、複数の事業所にあたることが必要になる場合もあります。
住まい選びの検討ポイント
お子さんにとって最適な住まいを選ぶためには、様々な角度から検討が必要です。
- 本人の意向と意思決定支援: お子さん自身がどのような暮らしを望んでいるのか、丁寧に耳を傾けることが最も重要です。本人の意思表示が難しい場合でも、普段の様子や好きなこと・苦手なことから本人の心地よい暮らしを推測し、意思決定を支援していく視点が欠かせません。相談支援事業所など専門家の助けを借りることも有効です。
- 障害特性と必要な支援内容: 日中の活動、食事、入浴、排泄、服薬管理、金銭管理、健康管理、緊急時の対応など、お子さんが日常生活を送る上でどのような支援が必要かを具体的に整理します。それに対応できる支援体制が整っているかを確認します。
- 地域環境とアクセス: これまで暮らしてきた地域との繋がりを維持したいか、医療機関へのアクセスはどうか、日中活動事業所への移動手段はどうかなど、周辺の環境も重要な要素です。
- 費用負担と経済的な持続可能性: お子さんの収入、利用できる制度、ご家族の経済状況などを考慮し、将来にわたって費用負担が可能か、無理のない計画を立てられるか検討します。
- 事業所や施設の雰囲気: 見学や体験利用を通じて、実際に働く支援員の方の雰囲気や、他の利用者の様子などを確認し、お子さんに合う環境か見極めます。
親ができる準備
親御様が元気なうちに、お子さんの将来の住まいについて準備できることはたくさんあります。
- 情報収集と相談: まずは地域にどのような住まいの選択肢があるのか、費用はどれくらいかかるのかといった情報収集を始めましょう。市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に早めに相談することが、具体的な情報を得るための第一歩です。
- お子さんとの対話: お子さんの「こうしたい」という思いや「これは苦手」という気持ちを丁寧に聞き取り、将来について一緒に考える機会を持ちましょう。
- サービス等利用計画の見直し: 現在作成されているサービス等利用計画がある場合は、将来の住まいや生活を見据えた内容になっているか、相談支援専門員と一緒に定期的に見直しましょう。
- 経済的な計画と権利擁護: 将来の住まいにかかる費用を賄うための財産管理や、親亡き後にお子さんの権利を守り、財産を管理してくれる成年後見制度の利用についても検討し、準備を進めることが重要です。
どこに相談すれば良いか
障害のあるお子さんの住まいに関する相談は、以下の窓口で行うことができます。
- 市区町村の障害福祉窓口: お住まいの市区町村の役所にある障害福祉を担当する課です。地域の障害福祉サービスに関する情報提供や、利用申請の受け付けを行っています。
- 相談支援事業所: 障害のある方やそのご家族からの相談を受け、地域で安心して暮らすための情報提供や、サービス等利用計画の作成を行う専門機関です。地域の様々なサービスに詳しく、中立的な立場で相談に乗ってくれます。信頼できる事業所を見つけることが重要です。
- 地域包括支援センター: 主に高齢者とそのご家族を支援するための機関ですが、親御様ご自身の高齢化に伴う課題(親の介護と子のケアの両立など)についても相談できます。
- 弁護士・司法書士: 成年後見制度の利用や、お子さんの財産管理、相続など、法的な手続きや専門的な内容に関する相談ができます。
まとめ
障害のある成人したお子さんの「親亡き後」の住まいについて考えることは、ご家族にとって大きな課題であり、不安を伴うこともあるかもしれません。しかし、地域にはグループホームや入所施設、その他の多様な支援を活用した住まい方の選択肢があります。
大切なのは、早い時期から情報収集を始め、お子さんの意思を尊重しながら、ご家族だけで抱え込まずに専門機関に相談することです。相談支援事業所や市区町村の窓口は、住まいだけでなく、必要なサービスや将来の生活設計について、ご家族と一緒に考えてくれる心強い味方となります。
この記事が、お子さんの将来の住まいについて考え始めるきっかけとなり、少しでも安心へと繋がる一助となれば幸いです。